33 召喚する国
この世界には、召喚術がある。
当たり前のように、はじめからあるので、それは特別な魔法だとは思われてはいない。
それぞれの国に伝わる召喚術は違うが、知識と豊富な魔力、条件を満たせば、おおよそ、失敗せずに、召喚術を行使することができた。
呼び出せるのは、一人。
多くても、片手で足りるほどの人数しか、一度に召喚はできない。
しかし、唯一、大量に召喚をする国があった。
集団で召喚し、まず懐柔し、それから選別する。
特別な者のみをのぞき、その他は使い捨てのように扱う。
魔物や、魔族との戦いに投入したり、国同士での戦いにも兵士として出す。もちろん、どこでも最前線だ。
簡単に補充できる召喚者の生命は、その国では、とても軽かった。
一人や数人を召喚し、ある程度の自由を保障する他国とは扱いがあまりにも違う。
そのありように他国が抗議しても内政干渉だと抗議しかえす。この世界の宗教の頂点、教会本部が問いただしても、そんなことはしていないと平然と返す厚顔無恥さだった。
先日も、魔族との諍いに異世界人を捨て駒のように投入したばかりだ。
町に現れたまだ幼い魔族の子供を、人の子を使いおびき寄せ、つかまえた者たちは、その子を、王都に売り払った。
異世界人に、魔族とはどういうものかということを教えるいい教材になると思い、危険ではあるがまだ子どもだからと、買ったが、あっけなく逃されてしまった。
逃がした異世界人は捨て場に、追放にした。
殺処分にしてもよかったが、それはできない。
大きい魔力を秘めている可能性があるものを、迂闊に処分することは危険だと、過去の事例が証明している。
昔、膨大な魔力を解き放ち、王都を半壊以上にした異世界人がいたと言う。そのものが瀕死の傷を負ってなければ、国は滅んだかもしれないといわれている。途中で息絶えたことで、免れたのだ。
魔族の子供は、かなり力の強い親を持っていたようで、そのあと、原因となった町に、報復に現れた。
王都から離れた町だ。
たいして守る価値はないが、初手から捨て置くのは外聞が悪いので、異世界人を投入した。
ようやく戦う術をおぼえたばかりの、未熟な異世界人たちは、案の定、あっけなく壊滅したという。
町の兵や冒険者たちも応戦したが、敵うはずもない。
一方的に蹂躙された町。
次は王都だと予想されたので、本気の戦力で防衛し、なおかつ返り討ちだと軍備を整えていたが、それはなかった。
町を襲った魔族たちは、町を、機能できないほどに破壊し、ほどほどに殺し、撤退していった。
被害状況は、異世界人、多数死亡、生死不明者あり。
町の兵士、冒険者たち、応戦した住民は、死亡、もしくはかなりの傷を負った。
その町の領主である領主一家は、生死不明。売り払ったのは彼らであるため、生きてはいない思われている。魔族に連れていかれたとの証言もある。
それから、指導者として、国から異世界人を戦場に導いた者たちは、即離脱で被害はない。その後、王都の防衛に備えた。
魔族が去り、町の防壁も壊され、住居も燃え、絶望の底から、なんとか再起しようと動き出した町の住民を、一人の魔族が襲った。
四つ足の魔物を従え、気まぐれに現れ、人を殺す。
襲撃のときは圧倒的な力の差はあったが、無力なもの、老人、女、子供は襲われることはなかった。
だが、今回は違った。
不意に現れ、無差別に殺す。年齢、性別関係なし。ただ、魔力の多いものを狙っているのではないかともいわれた。
魔族は、階位があるといわれている。
上級の魔族は、抜きんでて美麗で、人と比べるべくもない魔力を持ち、知力も優れているという。王がいて、その下に貴族階級もあるという。
しかし、力のない下級の魔族は、たいして美しくもなく、魔力も人より上程度、言葉も流暢に話せないという。
上を目指し、力を求め、人間や獣、魔力の強いものを喰らい、自分の力にしようとするという。
そういった下級魔族が町を襲っているのか? しかし、先の襲撃で、攻撃力をほぼ失っている町には、抗うすべはなかった。
自国の助けもなく、他国の助けもなく、このまま、魔族に滅ぼされるのが、確実だと思われていた――。
「……大聖女が動きましたか」
報告に腕を組み、あごに手を当てた。
「町の生き残りに転移魔法の使い手がいたようで、命がけでとび、瀕死の状態で、教会本部に助けを求めたようです」
「なるほど」
転移魔法といえど、万能ではないし、結界がはられている場所も多い。それらに弾かれ、さらに傷を負い、それでも道をみつけ、教会本部までたどり着いたのだろう。
自分を顧みぬ、命がけの行動は、時に奇跡を呼ぶ。
「それで、大聖女様が動き、魔族を殲滅。さらに、祈りの奇跡で白き光を降らせ、その光に触れたものは、例外なく、命をつないだようです」
「そうですか、流石ですね」
大聖女か。
動くなら、帝国の皇女だと思っていたが。それなら不法侵入だ、内政干渉だと、因縁をつけるだけでよかったのに、残念だ。それでまた、皇帝に、戦を仕掛ける口実になったものを。
つまらない。
「流石に今回は知らぬふりはできないでしょう。教会本部に、使者を送り、礼を。十分な寄進を添えなさい」
「かしこまりました」
礼をし、部屋を出ていく文官を見送り、椅子に深く座す。
あの、俗物的な大聖女なら、金で話がつく。
大聖女は気まぐれに動くこともあるが、基本的に正義のためには動かない。
それにしても、あの町は滅んでもよかったのに。あそこは面倒な制約の地だった。もっとも領主一家が、魔族に連れていかれたのが真実なら、滅んだも同然だが。
「それにしても……」
つまらないことばかりだ。退屈だ。
面白いと、興味を持った異世界人の少女は、こちらの懐柔にはじめからまったく乗らなかった。
みせないようにしていたが、おそらく、他の異世界人とは比べ物にならない何かを持っていたはず。
今となっては分からないが……。
こちらに関心をしめさないし、何をしても反応がないので、魔族の子供で様子を見ようとしたら、感情を爆発させて、子供を逃がした。
身体に沿って、結界をはり、こちらの攻撃をまったく受け付けない。
これで、攻撃手段も隠し持っていたら面倒だなと思ったが、同じ異世界人仲間に糾弾され、出て行けといわれ、あっさりと了承した。
同じ異世界人の仲間だろうに、集団で追い出すとはひどく醜いなと思った。攻撃もしていた。結界にはじかれていたが。
その集団の醜悪さが、やつらを育ちきらぬまま、魔族との諍いの前線に出そうと思った、きっかけではある。
異世界人の力あるものを害することはできない。
だから、白い霧のむこうへ続く、捨て場に送った。
できるなら引き止めてもいいと伝えた。連れて行った兵士によると、彼女は礼をいい、少しもためらうことなく、白い霧へ続く崖の階段を降りていったそうだ。
最後まで、興味深い。
白い霧を越えたのなら、もう、会うことはないだろうが……。
もしも、また、会えたなら、つかまえて、逃がさぬようにして、興味尽きるまで、遊んでやるのもいいかもしれない。
しかし……
「……私と同じ報告を、受けているなら――大聖女が、吐き気がするほど、大嫌いな、我らの陛下は、最高に機嫌が悪いことだろう。
使い終わったばかりだし、使い捨ての異世界人はいない。臣下に、物理的にやつあたりされると後始末が面倒だからな……。しかたない」
――我らの女王陛下の、ご機嫌伺いに行くとしようか。




