31 ちいさなお家①
お肉は量り売りか、スーパーのパック入り。
野菜、果物は種類別に、季節を問わず、必要なものが並んでた。
魚は切り身で買うのが当たり前で、一匹さばくときは魚屋さんにおろしてもらってた。めんどくさいときは、骨抜きの調理済みの煮魚買ってきていた。
買い物に行くのは、お母さんで、料理するのも、そうだった。
卵焼きひとつ上手に作れなくて、焦がしていた私が、今は、解体もできて、料理もできるようになりました。拍手。
さばき終わった魚、部位ごとにきり分けた肉の山をみて、腕を組んで、うなずく。
我ながら、頑張ったよ。
最初、素材そのまんまの獣や、まるっと一匹の大魚をみて、涙目で無理無理といってた頃が、ずいぶん昔のことのように思える。
無理だろうが、なんだろうが、生きていれば食べなければならないわけで、こんな森の中に、コンビニやスーパーなんてあるわけがない。
なければ、どうする?
狩って、解体して、調理するしかない。
追放仲間の先輩たちに、経験にもとづくサバイバル術教えられて、ずいぶんとたくましくなったと思う。
全部が全部、原始的に、やってたわけでもない。
私たちは、この世界に召喚されて、魔法や固有のスキルみたいなものをあたえられていた。
火魔法が使えれば、火を起こしする必要はない。
水魔法が使えれば、水場を探す必要はない。飲水もだせる。
それぞれの魔法やスキルをいかして、協力しあって、生活している。
拠点はまだ、完成とは程遠い。
みんな、専門家じゃない。家の建て方とか、畑の作り方とかわからない。
スマートフォンとかないし、調べられない。
試行錯誤して、知恵を出し合い、なんとか建物をつくり、炊事場をつくり、手作り感満載な、拠点をつくっていっている。現在進行形だ。
最初、ここにあったのは、一軒の家だけだったそうだ。
私が来たときには、建物もいくつかできかけていたけど。そのときは、ちいさなお家が一軒だけ。
ちいさなお家――外壁にツタの絡んだ、すこし年季の入った家。そばに井戸もあった。畑も。外観はたとえるなら、魔女の家?みたいな感じ。くるりと木の塀に囲われている。
女性が住んでたんだろうなって思わせる、可愛らしいカップや、お皿。ぬいぐるみ。テーブルクロスの刺繍は、花柄で、すこし糸の色があせていた。時の流れを感じさせた。
ここに、住民はいなかった。
玄関の木製の扉に、カギはかかっていなかったそう。
『白い霧を越えて、森の中をさまよって、途中からみたことのない獣に追い立てられたんだ。
ここにたどり着いたとき、カギのかかってないドアノブをまわして、中に飛び込んだ時、ほんと、助かったと思った。その時、助けてくれたと、なんでか、思ったんだ』
『私もよ。霧の中に、あいつらから逃げるために、飛び込んで。でも、越えられないってわかっていても、怖くて。足をとめられなかった。どこをさまよってたのかわからないけど、気がつくと、このドアの前にいたの。可愛らしいドアを開けて、いかつい顔の、この人が出てくるとは思わなかったけど』
『いかついって、ひでーな』
『僕も、つかまりたくなくて、転移魔法連発してたら、ここにきてた。霧? いつ越えたか、わからないよ』
『クソな召喚国の王子をぶん殴ったら、殺されかけて、白い霧こえて逃げ込んだんだよ、おれ』
『みんなそうだね。私も、あのクソヤローの顔面ぶん殴ってやりたいと思って、歩いてたら、ここにきてたんだよね』
白い霧を越えた場所の特徴や、召喚国の話を聞くと、違う国、違う場所から、このドアの前にたどり着いたようだった。
ここに来れば、安全だよ。と、導かれたかのようだった。
この家の持ち主は、かつて召喚された人だったのかな。
何も、それを示す証拠がないからなんともいえないけど。
最初は数人だったのが、増えていき、今は10人ほど。
さすがに、ちいさなお家の収容人数を超えすぎてる。
みんなで試行錯誤しながら、家というか、小屋にしかみえないものをつくったり、畑をつくったりしている。
ちいさなお家には、保存食とかはあったけど、それも限りがある。
必然的に、狩りをはじめた。保存されてた種を植えて、畑をつくった。
まだまだ、発展途上中だけど、私たちの拠点ができつつある。
いつか、この拠点を中心にして、この森というか、果てのない大森林のなかを、探索したいとみんなは言う。
いろんな場所から召喚者がこの白い霧の中に捨てられている。
まだ、いるはず。
この世界は、安易に召喚するみたいだから、絶対、たくさんいる。
この大森林は世界の中心にあり、果てがないという。
拠点どころか、年月を経て、街や村になっているところも、この大森林のどこかにあるかもしれない。
そして、もしかしたら……帰れない、戻れないといわれたけど、方法を知っている異世界人も、いるかもしれない。
この小さな家の人だって、帰れたから、空き家なのかもしれない。
みんな、いろんなことがあって、ここにたどり着いて、いろんな思いを心に秘めている。
幼なじみも、先に、召喚されてるから、落ち着いたら、探しに行きたいんだという人もいる。
散々な目に遭わされた人もいるから、復讐を考えているかもしれない。
私たちは、それぞれの場所で召喚され、仲間ではあるけれど、それぞれの心の内を語りあうほどの、仲ではない。
私を、いらないと否定したあのおきれいな顔を、ぶん殴りたいとは思う。
でも、まだ、手が届かない。
根本的に、白い霧から向こうへ戻れるのかもわからない。
わからないこと、だらけだ。
だけど、うじうじ考えすぎるのは、性に合わない。
下を向いたら、次は上を向くだけ。
とりあえず今は衣食住の、充実を目指したいと、思う。
卵焼き食べたいなぁ。今ならうまく焼けそうなのに。
卵……。とりあえず、にわとり、いるのかな。まず、そこからだ。
安全地帯のような小さな家周辺を一歩でれば、魔物、獣、虫などのオンパレードだ。
卵。このさい、ダチョウサイズでもいいから、いないかな。
とりあえず、解体道具片付けたら、探しに行こう。




