3 聖女
手を挙げて、そして、願う。
残酷に思い、願う。
すべて燃えてしまえと──
私の指先から溢れ出た力が、私の願いを実行する。
呪文なんて必要ない。
力は私とともに最初からあった。
「おお。素晴らしい。しかも無詠唱ですか。
なんと、すさまじい勢いで燃えて、やつらが倒れていく」
「さすがですな。マガイモノなどとは違います。最初から、我らの尊き方はこの世界にいらっしゃった」
大した力も持たない枯れ枝のような爺たちが、何かほざいてるが、そんなものは知らない。
うるさいから燃やしたいけど、まだ、もう少し利用するつもりなので我慢をする。
もがき苦しんでいるであろう魔物たちの断末魔の声は、小高い崖の上に立つ砦には届かない。
見えるのは巨大な炎、まるで炎の城壁のよう。
そして、それの向こうにはどこまでも続くかのように見える樹海だ。
このままだと木々にも燃え移るわね。いえ、もうきっと燃え移っている。
そうならば…。
私は上げていた腕をおろし、祈るように両手を組んだ。
とたん、ざあっと音を立てて炎の壁の向こうに、豪雨が降り始める。それに合わせて、炎の壁を消す。
「聖女様。なにを」
「森が燃えてしまいます。魔の森とは言え、浅い場所はひとが立ち入り、森の恵を得ていると聞いています。燃えてしまっては、困ってしまうでしょう?」
おっとりと、優しく優しく聞こえるようにゆっくりと話す。
「おお、なんと慈悲深い。村人や冒険者たちの日々の糧のことまで考えてくださるとは」
「聖女様の御業の前に、生き残っていたとしても、魔の森の奥に奴らは逃げ帰っていましょう」
感極まったように、枯れ枝爺たちが叫ぶのに、優しく微笑んでやる。
慈悲? 優しい? そんなわけないわ。
私の水は貫く刃。
大地に降り注ぎ、逃げ遅れたものを、貫いてる。
ここからは遠くてみえないだけよ。
術を行使した私には見えなくともわかる。魔物だけでなく、逃げ遅れてた人もちょっぴりまざっていることが。
爺たちが老眼でよかったわ。
さて、これからどうしましょうか?
自己アピールはとってもよくできたと思うわ。
そろそろ、お迎えが来るかしら。
ええ、でも焦ってはだめよ。ゆっくりとじっと待つの。
ここまで待てたんだもの。
大丈夫。もう急がないわ。
「聖女様。お身体が冷えます。砦の中へ。」
「お疲れでしょう。お休みになられてください。私はその間に王城と教会へ至急の文をしたためますぞ」
「そうです。噂は真実であったと。聖女様は、辺境の地に確かにいらっしゃったと」
聖女。
誰も私の名前を知らないのに、そう呼ばれるようになった。
炎で、魔物とはいえ命を奪う私が聖女?
まあ、いい。勝手に呼べばいい。
私自身はちっともそうは思わないけど、他人がどう呼ぶかなんてどうでもいい。
でもまあ、これからのことを考えると、都合がいいわね。
「ふふ」
思わずというように、聞こえないほど小さく、笑った。




