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欠片たち   作者: siki


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27/72

27 推し


「却下だ。行く必要はない」

「なぜです? 父上」

 

 さらりとそういわれて、思わず、反射的に問い返した。

 

 何も知らぬまま、魔族との戦いに投入された異世界人たち。手遅れかもしれないが、助けに行きたいと願い出たら、目を通していた書類から顔を上げぬまま、父はこたえた。


「他国の、起こした問題だろう。許可なく、入国し、介入するわけにはいかない」

「ですが、このままでは」

「何より、彼の国から、助けなど求められてはいない。こちらが動けば、めんどくさいことになる」


 父は、眉間にしわを寄せた。


 異世界人を大量召喚し、兵力にする。

 教義に反するという、この世界の神をまつる教会本部からの抗議も、知らぬ存ぜぬで通す。

 わが帝国にも、不意に思いついたように、国境を超え、兵力を送り込んでくる。

 返り討ちにしてはいるが、兵力にしているのは、異世界人で、もれなく、こちらを悪の帝国と決めつけて、教え込んでいるから、面倒なこと、この上ない。

 捕らえた異世界人達の、思い込みを解くのは、かなり骨がおれる作業だ。


 いっそ、大量召喚などできぬように、こちらから攻め入って、滅ぼそうかという意見が何度も会議の議案に上がっている。


「……内政干渉にならないように、転移魔法を使い、素早く生き残りがいれば、助けたいと」


 状況は、刻一刻と変わっていく。急がなければ、間に合わない。

 

「いや、必要ない。先ほど、あらたな情報がもたらされた」

「え?」

「教会本部が動いたそうだ」


 この世界の神をまつる教会。唯一神、唯一の宗教――その本部がある国はとても小さくはあるが、絶大な力をもっている。

 各国に、必ず、大なり小なり、教会はある。

 教会の本部に属する宣教師は、国境を自由に超え、教えを広げることができる。

 信仰という大義の前に、絶大な力を持っている。

 が、大きすぎる権力ゆえに、めったなことでは、数多ある国に、干渉したりはしない。

 普段は、修道士、修道女、認定された聖女たちが、人々に、唯一神の教えを、平和に説いているだけだ。


「報復をすませた魔族たちが撤収したあと、どういうわけか、魔族が一人だけ残り、気まぐれに町を攻撃していたようだな。町と言うにはかなりの規模の都市なのだが、先の襲撃で壊滅状態。誰の助けも望めない。そのなか、命がけで、国境を越え、……時間を考えれば、おそらく転移魔法の持ち主だったんだろうが、教会本部まで、窮状を訴え出たそうだ。――それで、大聖女が動いた」

「! 大聖女様が!」

 

 思わず、大きな声が出てしまう。


 そこら辺に、公式、非公式問わず、他薦、自薦もありの、たくさんいすぎる聖女とは、まったく別格の存在。


 尊く、強く、美しく、清らかだという、唯一神が認めたという、大聖女様。 

 

「……相変わらず、大聖女の信奉者(ファン)なのだな、我が娘は」


 ため息交じりの父に、否定はしない。

 書類から目を離し、あきれたように、私を見ている。


「会ったこともないというのに、なぁ」

「あの方は、普段は、教会本部の奥で、祈りの日々を過ごしていると聞きます。戦場で、お会いできるチャンスは何度かあったんですが、あっという間に解決して、あっという間に、転移で、教会本部に戻ってしまわれるので…」


 会いたいけど、会えない。


 その圧倒的な力と、素早い撤収、力を誇示しない潔い去り方に、憧れる。


「憧れは、憧れのままがいいというがなぁ。……とにかく、訴えを受けた教会本部から大聖女が転移で赴き、魔族魔物を倒し、町の人々を癒したそうだ。その間、1時間とかかってないらしい。相変わらず、仕事が早いな」

「さすがですね」 

 

 素早く去って、また、祈りの時間に戻られたんだろう。

 ふむ、今月の、魔物討伐の成功報酬、教会に寄付しようかな。


「大聖女が、解決したので、そなたの出番はなしだ」

「そうですね、行く必要はなさそうです。ですが、異世界人たちは?」


 捨て駒にされた異世界人たち。

 魔族の精鋭部隊の前に、あまりにも無力だったという。

 彼らは全員? それとも?


「現状、生死はわからないというところだ。何人、召喚されて、その全員が投入されたのかもわからないしな。……調べさせてはいるが」

「なぜ、そんなに軽々しく、何度も、大量に異世界人を召喚できるのでしょう?」


 召喚には代償が必要というのが、この世界の常識だ。

 だが、あの国にとっては、違うのだろうか?


「今回、異世界人たちを失い、また、あの国は、召喚をするかもしれぬな」

「ないとは、いえないですね。ですが、まずは」

「わかっている。しばらくの間、あの国に面した国境を注視しておくよう、伝達しておこう。異世界人の生き残りがたどり着くかもしれん。そのときは保護させよう」

「ありがとうございます、父上。――執務中、失礼いたしました」


 私は、礼をして、父の執務室を辞した。

 入ったときの焦燥感で急く気持ちとは、真逆の、安堵感にみちている。


 大聖女様が動いたなら、大丈夫。


 また、いつものように、新聞の一面飾るのかな。楽しみだ。

 保存用も含め、二部、必要だなと思いつつ、自室方面へ、長い回廊を歩いていく。


 大聖女様が動いたなら、もしかしたら、異世界人の生き残りもいるかもしれない。

 気になる。

 帝国内ならいいわよね、うん。


 大聖女様に憧れ、練習に練習を重ねた転移魔法で、ちょっとだけ国境に行こうと決めた。

 すぐに戻ればいいよね。例えば、1時間以内で。


 自室に戻れば、侍女長に止められると思い、回廊を歩きつつ、転移魔法を唱えた。

 




 

 

 

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