25 唯一無二①
「……なんでしょうね、聖女って、多すぎじゃないかしらね」
頬杖を行儀悪くつきながら、今日の新聞、どちらかというと、ゴシップ系のものをながめる。
今日の特集は各国の聖女だと、肖像画付きで、掲載されている。
結界の聖女。祈りで、魔物や、魔族を防ぐ。
癒しの聖女。祈りで、怪我や、病気を癒す。
破壊の聖女。祈りで、魔物や、魔族を倒す。
今代の聖女たちは、召喚者は少ない。
異世界から落とされた者で、適性のありそうな人物は、結界の聖女のもとで、修行中。
集団召喚されたなかで、癒しの魔法が得意な少女は、教会に、認定される前に、行方不明に。
先日の、大規模な、魔族襲撃のときに、亡くなったのではないかと言われている。
――召喚国は、沈黙し、詳細は不明。襲撃された町は、今も……
要約すると、そんなことが記されている。
「……聖女って、なんなのかしらね? 何をどうしたら、そう呼ばれるのかしら? 誰かを癒す? 救う? わからないわ」
立ち上がって、天幕の外にでる。
見上げると空は青くて、けれど、地に目を向ければ真っ赤だ。
焼け焦げた、崩れ落ちた家屋。
まだ生きてるものの、うめき声もきこえてくる。
「ふふ。……こんなところを歩いたら、ドレスの裾が、びっしょり濡れて、絞ると、血まみれだわね。……殺し方にしても、苦痛を与えたかったのか知らないけれど、引き裂いて、きり裂いて、その場に放置、だなんて、まったく美しくないわね。力だけの大猿みたいね?――ねぇ、そう思わない? そこの、魔族さん?」
「おまえ、なんだ? どこからきた?」
中空に浮かび、風の魔法らしきもので人間を引き裂き、大量のバラバラな骸を増やしていた魔族が、いぶかしげに、問い返してきた。
「どこから? 見なかったの? この天幕からでてきたじゃない? 私、とても気に入っているのよ。この真っ白な天幕も、この私の白いドレスも」
お気に入りだから、
「汚したくないわ」
「天幕? そんなもの、なかった。おまえは、なんだ、ただの人間じゃない、なんだ?」
「ただの、か、どうかは知らないけれど、あなたこそどんな魔族? 報復を済ませた本隊はとっくに撤収したというのに、いつまで、そんなことをしているの?」
子供をさらわれたという魔族は、一軍を率い、ひとつの町を襲った。
理由は、報復だろう。
迷い込んだまだ幼い魔族の子を、その町の者がとらえ、王都に、文字通り、金銭で売り払ったという。
子供は、さらなる危害を加えられる前に何者かに逃がされ、魔族の親のもとに帰ったという。
戻ったからといって、許されるはずもない。
魔族は、根本原因となった町を襲撃した。
迎え撃たされた召喚者たちを、圧倒的な力の差で壊滅状態にした。
町の守備兵、冒険者達もなすすべもなく、自国の軍は早期に撤退。文字通り、魔族の気の済むまで、蹂躙された。
報復をすませた魔族らが立ち去った後。
一人の魔族が、気まぐれに現れ、配下の魔物とともに、復興しようとする町を破壊し、殺戮していた。
召喚者を捨て駒にするような国のために、他国の聖女や、実力のある召喚者たちが動くわけがない。
さらに、国は、町を切り捨てたとばかりに何もせず、放置。
誰の救いもない状況で、わらにも縋る気持ちで、はるばる教会本部まで、命からがら住民が助けを求めに来たのだ。
そこまで、されれば、信徒のため、動くしかない。
が、魔族に対抗できるようなものは、現在の教会本部には、私しかいなかった。
いつもいつも、最終的にどうしようもなくなってから、助けてっていってくるのって、なんなのでしょうね。
はやめに、傷が浅いうちに、寄進とともに、頼みにきてくれたらいいのに。
お布施は高いけど、確実に助けてあげるのに。
財産、町も破壊され、何もかも失って、命しかのこってない状態でこられても、もうけはゼロだわね。
でも、しかたないわ。これで助けなきゃ、鬼だ、悪魔の館と、ゴシップ紙に教会本部がかかれてしまうわ。
でも、紅茶をのみ途中だったし、新聞も読み途中だったから、きりがいいところまで――読みつつ、飲みつつ、天幕ごと転移したの。
汚れたくないから、さっさとすませちゃいましょうね。
手を掲げる。
人前では、ありがたがられるから、長々と詠唱したりするけれど、今日はしない。一応、謝っておく。
「ごめんなさい。今日は、忙しいから、手早くすませるわ」
「お、おまえ」
腐っても、魔族。
私の掲げた指先からほとばしろうとする力に気がついたようだ。
驚愕に目を見開き、身体が後ろに後退し始める。
魔族は美しいほど、強く、知恵があるという。
外見はまあまあ、言葉はつたない。
これじゃ、まだまだね。
おこぼれに預かりに来た、下級かしらね。
バチバチと火花を散らし始めた、私の力に魔族が空中で逃げに転じようとする。
が、遅い。
私の、ほどほどに抑えた、雷魔法が、炸裂する。
「!!」
悲鳴をあげるひまもなく、黒こげになり、地面に落ちていく。
ピクピク動いているが、時間の問題だ。
周囲を徘徊している四つ足の魔物にも、もれなく、同じものを落としてあげておく。
「ほんと、弱いわね」
後は、町の中から様子を伺っている冒険者や、その他がどうにかするでしょう。
サービスで、空に向け、光を散らす。その光を受け止めた者の、傷を癒すように、祈ってあげる。
優しいわ、私。
「終了ね。帰りましょう」
さっさと踵を返し、天幕の中へ戻る。
詠唱なしで、教会本部へ。大聖堂の奥庭へ転移する。奥庭は男子禁制よ。
ぱさりと、音を立てて、天幕をでると、待ち構えていたのか、皆がいっせいに頭を垂れた。
「――大聖女様」
そう、私は大聖女と呼ばれている。
唯一無二の、存在。
趣味は、自分好みに整えた一般人立ち入り禁止、男子禁制の奥庭で、特注お気に入りの真っ白な天幕を張り、新聞を読んだり、流行りの小説を読んだり、お茶を飲んだりして、怠惰にすごすこと。
「先ほど、訴え出たものは、どうしたの?」
ひざまずく修道女の一人に問う。
「すでにごぞんじでしたか。はい、訴えの後、倒れ、今は医務室で、治療を受けております」
少なくとも、この教会本部で起こったことで、私の知らないことはない。
各国の教会のことは、意識して情報を知ろうとしないとだめだけれど。
さすがに、暖簾分け?した、他国にある教会まで、プライバシーの侵害はしないわ。自主運営って大事だし。
「それなら、目が覚めたら、伝えなさいな。
もう何も心配することはない。魔族はもういない、安心して帰りなさい、と」
「え? もう、ですか? え、1時間もたってませんよね。
私たちは、大聖女様に動いてもらおうと、お出ましになるのを待っていたのですが? ええぇ」
「ふふ、私にとっては、簡単なお仕事だったわ」
微笑みながら、伝える。
リークしていいわよ。次は、聖女特集ではなくて、唯一無二の、大聖女特集ね。
「さすがです。大聖女様」
当然よ。
小娘聖女達が何人増殖しようとも、私にはかなわない。
私は、唯一無二の大聖女。
高笑いしたくなったけれど、それは我慢して、後ですることにしたわ。




