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欠片たち   作者: siki


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24 白い霧の中の、出会い

 私に向かって、手を伸ばすから抱き上げた。

 

 抱き上げた途端、ぎゅっと首にしがみついてくる。

 

 あたたかいし、柔らかいし、


「文句なしに、可愛い」


 弟は、私と年子だったし、知り合いの赤ちゃんをこんなに頻繁に長時間抱っこなんてしたこともない。抱っこし放題。赤ちゃんってほんと、可愛いってこと、初めて知ったよ。

 ぎゅっとして、ぷっくらほっぺをスリスリして、


「可愛い」

 

 しかも、今は肌寒くなってきた季節だから、あったかい。

 ぎゅっとさらに強く抱きしめると、


「うーっ」


 って言いながら、小さな手で、ぺちぺちぺちぺちと、私を叩く。まったく、痛くないし、むしろ、可愛さがつのる。


 ぺちぺちぺちぺちぺちぺちと叩いてるのに、抱っこ魔になってる私が力をゆるめず、埒が明かないとおもったのか、


「やー」 


 するりと、私の腕から脱出して、ふわふわと浮き上がり、抗議するように、小さな腕を腰に当てている。

 今日の服は、ハチさんスタイルだ。かぼちゃパンツが黄色のしましま。

 着ぐるみシリーズいい。この前は、スイカだった。こっちのフルーツにスイカはないけどね。

 デザイン担当、今日もいい仕事してるなぁ。


「うーっ」

「ごめん、ごめん。くるしかった? かわいいし、あったかいから、つい、ね?」

「うーっ」


 大きな目で、にらんでるつもりなのか、じーっとみてくる

けど、全然怖くない。可愛いが増えるだけ。

 ふわふわ浮遊魔法で浮いてて、これで背中に白い羽根があったら、ちび天使だなと思った。今日はハチさん、バージョンの羽だけど。


「ごめんってば」

「うーっ」




 赤ちゃんだけど、浮遊魔法も、平然とつかうこの子は、私の恩人でもある。

 

 召喚されて、聖女だとか言われてたのに、マガイモノと言われて、白い霧の向こう側へ、文字通り、背中を押されて、ポイ捨てされた。

 ふりむいても、後ろには霧しかなくて、私を連れてきた人の姿も見えず、声も聞こえなかった。


 何もする気も起きなくて、ぺたんと地面に座り込んで、ぼんやりとしていた私。

 うつむいていたんだと思う。

 顔をあげて、周囲を見渡したり、これからどうしようとか、考える気力もわかなくて。


 ただ、自虐するかのように、ぐるぐると、私の何がだめだったんだろうとか、マガイモノってなに? にせものってこと? でも、間違えたというなら、私が悪いわけじゃないよね。悪いの? とか、マイナスなことばかり、思い浮かべてた。


 そんな時だ。


「う?」


 って、声がして、小さな顔が、うつむく私の下からのぞきこんできたのは。


「わ! あ、なんで、赤ちゃん? 浮いてるし。異世界の魔法すごい」 

「う? ちゃぁ。う? あう」


 なんか、いっぱい赤ちゃん語?いってるけど、わからない。

 召喚されて、異世界の言葉は、耳からのものは翻訳されて通じるけど、赤ちゃん語は適用外のようだ。


「何言いたいのか、わからないけど……えっと、迷子? お姉さんも、迷子みたいなものなので、きみをお家に連れてくのは、きびしいかも」


 召喚されて、ポイ捨てされて、居場所のない、異世界人ですから……。


 また自虐して、ズキンと心にささって、目じりに涙がにじんだ。

 泣くのが赤ちゃんの仕事と、親戚のおばさんが言ってた言葉を思い出し、ぐっとこらえる。鼻の奥がつんとする。

 赤ちゃんの前で、泣いたら、だめでしょ。


 だけど、私の涙に気がついたのか、ふわっと浮き上がり、下を向いたままだった、私の後頭部を、ぽんぽんと、小さな手でたたいた。まるで、なぐさめるように、泣いていいんだよ、というかのように。


「うっ。それ、反則だよ。ーっ」


 こらえていた涙が一雫、すべり落ちたら、あとはとめどなかった。

 どんどん涙があふれ出す。嗚咽がこぼれる。


 悲しい、悔しい、なんで私がとか、そんな気持ちが止まらなくて、涙も止まらなくて、思いっきり、泣いてしまった。


 その間も、ふわふわと浮いたまま、赤ちゃんは、ぽんぽんしてくれたり、なでなでしてくれたりしていた。


 ひとしきり泣いて、顔をあげた。

 泣くと、すっきりするのは、私だけ?

 涙で、ごちゃごちゃな感情が流れていったみたい。


「ありがと、そばにいてくれて」

「あう」


 心配そうに、こちらを見てる。ふわふわの髪は、なでたら気持ちよさそうだ。


「も、平気だよ。とりあえず、きみの、親御さん、探しに行こ。きっと、探してる」

「う? ううん。うう」


 ぷるぷると否定するかのように首を降って、ぷくぷくした指を指さす。

 破損した石畳がまばらにある広場の、向こう。木漏れ日がさす、森を指さしている。


「あっち?」

「う」

「あっちがおうち?」

「う」


 先導するかのように、ふわふわと浮いて、そちらに向かっていく。

 少し先に行って、止まって、待ってる。


 行き先もないし、行くしかないよね。


「ごめん。すぐ行く」

 

 立ち上がって、かけだす。



 それが私と、赤ちゃん――との出会いで、そこから、いろいろなことが始まっていくんだ。


 楽しいことも、苦しいことも。


 

 

 

 


 

 

 

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