23 思い出してく 混乱②
一度、思い出したら、堰をきったように、忘れていた、忘れさせられていたことも――だんだんと思い出していく。
なぜ、おれだけがおぼえていたのか?
簡単な話だった。
おれが、あいつに突き飛ばされたからだった。
足下に、突然、現れた光、読み取れない文字、記号?がどんどんあらわれ、
『っ! なんだ、これ』
慌てた声が聞こえたのか、数メートル先、通学路を歩いていた、あいつがふりむいた。
外見だけはとても綺麗すぎる、幼なじみ。あいつは、物心つく前からの腐れ縁なだけというが。
長い髪がふわっとひるがえり、おれの足もとを見、目を瞬かせた。
そして、ムダに運動神経のいいあいつは、瞬足でかけより、おれをつきとばした。
『わ! いきなりなにするんだよ。あぶな』
おれは尻もちをつきそうになって、とっさに、あいつの細い手首をつかんだ。
ぐいっと、ひっぱってしまった。
『これ、絶対危険な気がするよ。はなれなきゃ』
『なにいって』
『っ!?』
『えっ?』
おれはその文字と光から外へ、あいつはその上へ。
――おれが、あいつを、身代わりにしてしまった。
つかんだ手首を、さらに、おれのほうにひきよせようと、したんだとは思う。
間に合わなかった。
目の前から、一瞬で、あいつが消えた。
残像のように残っていた光も、記号もわけの分からない文字も消えていった。
その時のおれは、何かをきつくつかんで離すまいとしていたかのように、手をのばし、こぶしをにぎりしめていた。なぜ、そんなことをしていたのか、わからなかった。
違和感に首を傾げ、すぐに、電車の時間まであまりないことに気づき、慌てて走り出した。
当たり前のように、おれの日常にいた、あいつ。
不自然に、座るもののいない窓際の、机。誰のかわからない下駄箱にはいった上靴。同じくロッカー。
『これ、誰の? あいてるとこに、勝手に入れちゃだめだよ』
女子委員長の声に、
『何言ってんだ、それ、――のだろ』
と反射的に答え、それに心底不思議そうに、聞き返された。
『――さん? それって誰のこと?』
おれだけがおぼえている。
それは、おれが、本来だったら、あのわけのわからん光の上から消える予定だったからなのか?
あいつは関わりがない予定だったのに、かわりになったからなのか?
気がついてみると、あいつの痕跡はたくさんある。
机、ロッカー、下駄箱。
一番大きな痕跡がある。
俺の家の、近所。和の邸宅の中、違和感ありの洋館があった。あいつの部屋というか、家だ。
訪ねていったら、門前払いくらったけど、不思議そうに、空き家といっていたし、中を見せてもらうことができたなら、あいつの持ち物がそのまま、ある気がする。
証拠隠滅が、中途半端だと思う。それは、あいつがイレギュラーな存在となったからなのか?
思い出したからには、どうにかしなきゃと思う。
気持ちが、焦る。落ち着け、落ち着けと言い聞かせる。
なにが、起きたのか?
神隠しとか、最近、漫画や小説で人気の、異世界召喚だとか?
「……まさかな、でも」
そんなことを思う、自分の正気をうたがう。
だけど、目の前で、あいつが、かき消えたのは、記憶を思い出せば、確かな事実で。
「とにかく、しらべるか……。情報収集は、基本だよな」
スマホでもよかったが、眼鏡男子のおれは、すぐ目がつかれる。
なので、パソコンを起動する。
すると……でてくる、真偽の不確かな、情報が、たくさん。
「……これが、本当なら、かなりの人数だよな」
「しかし、異世界召喚が、本当なら、何のために? けど、あいつなら、間違いなく、素直にいうことをきいたりしないな」
「涼し気な顔をしつつ、内心は、ものすごく怒ってる可能性が高い。隙をついて、逃走する計画を、しっかりとたててそうだ」
「――市? ここ、ものすごく失踪者多いな。隠ぺいは?」
「一人もいれば、集団もあるな。誘拐集団は、ひとつじゃなく、多数?」
だんだんと、のめりこむように、画面に見入っていたおれは……
また、足下に現れた、光、文字に……気がつかなかったんだ。




