12 婚約破棄④
今年の卒業夜会は、人々の記憶に、くっきりと残っただろう。
もちろん、悪い意味で。
「……これ、が、ほしいと?」
恐る恐る聞く。
「ええ。そういいました」
「えーっ。私ってば、大人気。罪作りだわ」
「聖女は、僕のものだ。でも、隣国の聖女様、どうせなら僕を欲しがって欲しい」
「……いや、きみ、なにをいっている? いらないだろう。何でもかんでも拾ったらだめだ」
「……めんどくさいな、もう、黙らせるか」
混沌だ。
さらに、追い打ちをかけるように、遠くから複数の足音が聞こえてくる。
ちらりと、ホールの置き時計をみれば、保護者、来賓の、入場時間だ。
ああ、もう。頭を抱えたくなるが、そうもいってはいられない。
これ以上、恥をさらしてたまるか!
「父上は、壇上にあがって、さっさと王族席に座ってください! 正面、一番、豪華な椅子です。
隣国の聖女様、話はあとです。あちら、王子殿下と来賓席へ」
次に、傍観者に徹してる卒業生たちに告げる。
「ペアと、さっさと踊りはじめなさい。楽団は、すみやか音楽を」
目をつり上げて、鬼気せまる有様で指示を出す私に、父でさえ、すたすたと近衛をひきつれていく。
なにかいいたそうな隣国の聖女は、婚約者の第一王子に、強引にうながされ、場所を移動させられた。
隣国の王子は、それ、絶対いらんと言いたげに、わが国の聖女(一応)を睨み、背中を向けて、歩き出す。
いらないなら、自分で説得してほしい。
「私は、どうすればいいの、お姉様?」
「僕達は、また、踊ればいいのかな?」
取り残された二人が所在なげに、私に問う。
ぱちんと、指をならす。
「退場です。警備兵、連れていきなさい。夜会が終わるまで、どこか部屋にぶち込んでおきなさい! くれぐれも逃さないように」
「はっ! 皇女殿下」
警備兵たちが今度こそ二人を取り囲み、腕をつかみ、身をよじる二人を、目立たない通路から連れ出そうとする。
ちなみに聖女(一応)の自動結界一人用は、明らかな攻撃でないと作動しない。身体接触―肩があたった、ぶつかったなどのそういうものには反応しないことは、実証済みだ。
「はなして、私、聖女なんだから!お姉様、助けて」
「はなせ! 無礼者共! お前になんの権限があって、僕たちを連れ出す!」
元婚約者が私に向けて、憎々しげに叫んだ。
「うるさい、黙りなさい。何の権限? 私はこの帝国の唯一の皇女。それだけで、ここでは権限あるわね?」
「……くっ」
「それにね、私はこの、舞踏会の、総責任者でもある」
ぶっちゃけ、忘れてたけど、ね。
肩書だけで、何もしなくてもいいですよ、殿下と、私に役をふった生徒会長と、役員はどこに消えた?
私の周りを避けるように、離れた場所で踊っているのを発見。……あとで、おぼえていなさい。
「問題を起こしたものは排除。その権限を私は持っている。――連れていきなさい」
なにか、ぎゃあぎゃあ言ってるが、その声も遠ざかっていく。
正面からではなく、奥の、目立たぬ場所から、連れ出された二人を確認して……
私はあえて、微笑んだ。なるべく、優しく、おだやかにみえるように。
開幕早々公衆の面前で婚約破棄宣言され、怒りを押し殺しつつ、手打ちにして終わらせようとしたら、乱入者のせいでできず。夜会の進行スケジュールもめちゃくちゃ。実行委員である役員は職場放棄。お飾り予定の私が、強引に軌道修正している、今。腹立つ、ムカつく、この怒りどうしてくれよう。
が……、常識人を自負する私はぐっとこらえる。
怒ってない、わたしはおこってないですよ、と、怖くないですよ、と、さらに笑みを深める。
「――さぁ、つまらないことはさっさと忘れて、楽しみましょう」
後日、参加していた幼なじみの令嬢に、微笑んでるのに、目が笑ってなく、すわっていて、とても、怖かった……と、身体を震わせていわれたのは、ショックだった。
次、婚約破棄の後日談、と、後始末です。




