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闇の剣聖編②

 それは、一人の男の物語ーーーー


 とある村で、二人の少年たちが木剣を握ったまま睨み合っていた。


 両者とも顔立ちにはまだ幼さが残り、体つきもそこまでがっちりとはしていない。しかし互いの目はギラギラと輝いており、どちらかが隙を見せた瞬間、勝敗が決するようなピリピリとした空気を漂わせていた。


 睨み合った二人を、取巻きの子供たちも緊張した面持ちで見ている。


 しばらくすると誰かが息を呑む、ゴクリと言う音が聞こえてきた気がした。転瞬、睨み合っていた二人が同時に距離を詰める。


「はあっ!」


 片方の少年は剣を力強く横振りし、相手の首を狙いにいく。しかし、相手はいとも簡単にそれを防御する。すかさず木剣を引き、今度は縦の一撃を叩き込んだ。


 ガン! と言う強い衝撃。なんと手首のスナップを利かせることで縦の一撃をブロックしていた。決められたと思っていただけに動揺も大きい。


「ク、ソッ・・・」


 突き出された木剣を、危なげなくかわす。しかし敵もさるもの、立て続けに木剣を叩き込んでくる。速い上に的確。弱点に突き込まれたと思い対処した次の瞬間には別の場所を攻撃されているかと思わせられるスピードだ。


 神速の16連撃を凌ぎきり、少年は体勢を立て直す。気合い一つで飛び掛かり、袈裟斬りの要領でアプローチを描けた。


 だが相手はそれを察していたかのように木剣を構えると、カウンターの構えを取る。



 ーーーー瞬間、少年が木剣を素早く引き、下から上へと木剣で斬り上げた。その動作を一切予想していなかった相手は動揺のあまり対処に遅れる。


「オオッ!」


 木剣の先端部分が相手の顎に直撃した。同時、勝敗が決する。


「凄い!」


 取巻きに居た一人の少女がパチパチと拍手を送った。遅れて他の皆も拍手を送る。


「・・・ッ、良し!」


 木剣を当てた少年が、嬉しそうにガッツポーズを決めた。それに対して相手は恥ずかしそうに頭を掻く。


「まさか【剣聖】の息子である僕が負ける日がこんなにも早く来るとはね。驚いたよ、ラグラ」


 その言葉に、勝利した少年ーーーーラグラは自慢げに胸を張った。


「当たり前だ。家で毎日素振りを1000回やってるんだからな。これで1勝236敗だな、フォーカス」


 ラグラの言葉に【剣聖】の息子、フォーカスはまた頭を掻いた。


「そうだね。でも、次は負けないよ」


「ああ、望むところだ」


 二人手を伸ばし、がっちりと固い握手を交わす。その動作に、また周囲から拍手が沸き起こった。


「まさか本当にあのフォーカス君を倒せるなんて、驚きよね」


 取巻きの言葉に、ラグラは頷く。


 【剣聖】。それは、剣の腕を磨き、その極致にたどり着いた者に天から送られる称号だ。世襲制ではなく実力主義であるため、剣の道を進む者はほとんどの者がこの【剣聖】を目指して鍛え上げていく。


 そんな【剣聖】を父に持つフォーカスも、【剣聖】の称号を手に入れる為に日々精進を繰り返している。毎日父と直接対決し、へとへとになるまで己を追い込んでいる。


 それ程の実力と努力を持ったフォーカスを、ラグラは負かしたのだ。勝ちたいと言う一心で血を吐く思いで繰り返した努力は無駄にはならなかったと言うわけだ。


「今日はもう疲れたから帰る。また明日な」


「うん、また明日ね」


 フォーカスに手を振り、ラグラは帰路に着く。家に帰ると、一人の少女がこちらに走り寄ってきた。


「お兄ちゃん! お帰りなさい!」


 ラグラの妹、ジャスミンだ。長い黒髪の可愛らしい容姿で、元気一杯の性格も相まって近所から人気もある少女だ。


「ただいま、ジャスミン」


 ラグラは妹に微笑みを返すと、木剣を側の壁に立て掛けた。


 二人に両親はいない。二人とも数年前に起こった魔族との小競り合いで死んでしまった。一切の抵抗も出来ないまま、あまりにもあっけなく。ラグラが必死で剣を鍛えようとしているのは、自分は無惨に殺されたりはしないと言う強い思いがあるからだ。


 家の裏にある井戸から水を汲み、火の魔法を使って湯を沸かす。布を使って汗をかいた体を拭くと、ラグラは家に戻った。


 家に戻ると、テーブルの上に料理を置くジャスミンの姿があった。


「あ、お兄ちゃん。料理室にあるお皿持ってきて」


「おう」


 言われた通り皿を取り、テーブルに戻る。ジャスミンは既に座っていた。


「じゃあ、食べよっか」


「ああ」


 何気ない会話をしながら、料理を口に運ぶ。ジャスミンの料理は相変わらず美味しかった。






 食事を終えると、ジャスミンがふと思い出したようにラグラの方を向いた。


「あ、そうだ。そろそろパンが切れそうだから、街に行って買ってきてくれない?」


「分かった。じゃあ食後の散歩がてら行ってくるな」


「うん、お願い。あ、最近この辺物騒だから気を付けてね」


 ラグラはポケットに銀貨を何枚か詰めると、立て掛けてあった木剣を腰に装着し家を出る。


 ラグラの住む村から街までは歩いて十分の距離だ。一週間に一度、ラグラはここで必要な物を買っている。


 パンを購入し、店から出る。その時、路地裏で何やら言い争いをしている人影があるのが見えた。


「何だ・・・」


 好奇心に釣られて覗き込んでみると、酷い剣幕で何かをまくし立てる少女と困ったように頭を掻く大人の男が居た。男の手には綺麗なペンダントが握られている。


「だから・・・言ってるだろ。お前の持ってるペンダントを担保にする代わりに、金を貸すって。担保の説明もしたよな? この場合は二週間待って金を返さなかったらこれは俺のものになるって・・・」


 よく見ると、男の方は街の金貸しだ。金貸しにも関わらず良心的な利息で金を貸してくれるという、街の中では割りと有名な金貸しだ。


「だから、知らなかったんだってば! お金はちゃんと返すからもうちょっと待ってよ!」


 一方、まくし立てている少女は旅の人間か何かだろうか。少なくともラグラは見たことがない。


「それなら金を持ってきてくれるか。そうしたら考えるよ」


「それは・・・あと一ヶ月待ってくれれば必ず・・・」


「駄目だ。そんなに待てるわけないだろ」


 冷たく突き放す質屋。こんなに冷たい彼は初めて見た。


「二週間って言ったよな? しかもそれから三日待った。それでもお前は金を返さなかった。もう諦めろ」


「嫌だ! 返してよ!」


 少女が質屋に突っ掛かる。しかし質屋がひょいとかわすと、少女はスッ転んで地面に倒れた。


「俺は何度も忠告したぞ。二週間待って返せなかったら大変だから、大切な物なら辞めとけって。でもお前は適当に聞き流したじゃないか。なのに返せって・・・勘弁してくれよ」


「返してよ! 返してよ!」


 地面に倒れても尚、少女は叫び続けている。それに対して質屋は呆れたように頭を抑えていた。


「お願い! 返しーーーー」


「そこまでだ!」


 不意に耳元で大声が聞こえ、ラグラは振り向く。するとそこには一人の青年が立っていた。


 月の光を受けてピカピカと反射している鎧を纏い、腰には剣をぶら下げている。顔はこの暗がりのせいであまり良く見えないが、装備がどれも高級品である事だけは察しが付いた。


「か弱い少女に暴力を振るうなんて、君は男の風上にも置けないな! その少女から離れろ!」


「は?」


 質屋は困惑した顔を見せる。だがそれは無理もない。何故なら質屋は少女に対して一切手を出していないからだ。


「俺はさすらいの勇者だ! その狼藉、見過ごすわけにはいかない!」


 言いながら勇者は剣を抜くと、質屋に斬りかかった。その常人離れした速度に、ラグラは瞠目する。


「速い・・・」


「うわっ!」


 あまりの速度にラグラが驚いていると、質屋にうめき声が聞こえた。見ると、質屋が鳩尾を抑えて地面に蹲っている。どうやら鳩尾を強打されたらしい。そんな質屋を尻目に、勇者は少女を助け起こしていた。


「大丈夫かい?」


「私は大丈夫・・・でもペンダントが」


 助けられた少女が、地面に落ちたペンダントを指さす。先ほど質屋が鳩尾を殴られた際に落とした物だ。勇者はそれを拾い上げる。


「これの事かい?」


「そ、そう。それは私の大切な物なの!」


 そう言って手を伸ばす少女の手に、勇者はペンダントを握らせてやる。


「それじゃあ、今度からは取られないように気を付けてね。ここら辺は物騒だから」


「う、うん」


 心なしか、少女の声が弾んでいるように聞こえた。勇者は少女をエスコートして路地から出ようとする。


「じゃあ行こうか。ここに居ると危ないし」


「そ、そうね。ねえ、良かったらこの後ーーーー」


「おい、待て泥棒!」


 いいムードになりかけた二人を、質屋が遮る。鳩尾を抑えながらではあるが、膝立ち状態になるまでに回復している。そんな彼を、勇者は咎めるような目で見つめた。


「泥棒は君の方じゃないか。それなのに彼女を泥棒呼ばわりなんて、とんだ極悪人だな!」


「黙れ! この盗人が・・・。おい、そこの君! 彼らからペンダントを奪い返してくれ!」


 そう言って質屋はラグラを指さしてきた。勇者たちの目が集まる。


「え?」


「歳のせいで回復が遅くてな・・・俺では到底この盗人たちを倒せん! どうか助けてくれないか!」


 質屋の言葉に、ラグラは頷いて路地に入る。路地に入って来たラグラを、勇者は鼻で笑った。


「やれやれ・・・また噛ませ役か。もらったチート能力はさっきの人で試せたからもういいって言うのに」


 何やら訳の分からない事を口走っている。しかし、意味は分からないが馬鹿にされている事だけは充分に伝わった。若干イラッとしながらも、ラグラは木剣を構える。


「そのペンダントはオッサンの物だ。返せ」


「君もあの人とグルなんだな。よし、気は進まないけど倒す事にするか」


 勇者の言葉と同時、その姿が消える。どこに行ったのかとラグラが警戒していると、腹に衝撃。


「ガ、ハッ・・・」


「やっぱりこのスピードは強いなぁ」


 呼吸が出来ない。腹にズシンと響いた痛みがラグラを内部から苦しめる。たまらずラグラは地面に倒れ込んだ。


「勇者様、素敵!」


 少女が何やら黄色い歓声を上げている。それに対して勇者は照れくさそうに返事をした。


「大した事ないよ。そんな事より憲兵隊を呼ばないとね。こんな危険な人たちを野放しにしておくわけにはいかないからねーーーーー」


 そこで、ラグラの意識は途切れた。



 


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