第92話 航のような存在
大翔が、五歳になった頃。
大和は、日本に拠点を戻し、時々、我が家を訪れるようになっていた。
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「オッサン、来たよ!」
大翔は、大和のことを、いつからか、そう呼ぶようになっていた。
最初、僕は、少し驚いた。誰かに教えたわけでもないのに、大翔は、自然と、その呼び方を、口にするようになっていたのだ。
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「なんで、そう呼ぶようになったの?」
僕が、そう尋ねると、大翔は、無邪気に答えた。
「だって、パパが、大和おじさんのこと、たまに『オッサン』って呼びそうな顔するから」
その答えに、僕は、思わず、笑ってしまった。
どうやら、僕自身が、無意識のうちに、大和を、航さんと重ねて見ていたことが、息子にも、伝わっていたのかもしれない。
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「まったく、俺まで、オッサン呼ばわりかよ」
大和は、そう言いながらも、まんざらでもなさそうな顔をしていた。
「懐かしいだろ、その響き」
僕がそう言うと、大和は、少し遠い目をした。
「ああ。なんか、不思議な感じだな」
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大和は、訪れるたびに、大翔に、様々なことを教えるようになっていった。
「オッサン、これ、どうやるの?」
大翔が、そう聞くと、大和は、丁寧に、根気強く、教えてくれた。
簡単な体の動かし方、自転車の乗り方、時には、人生についての、素朴な助言まで。
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「勉強、ちゃんとやってるか」
ある日、大和が、大翔に、そう尋ねた。
「うーん、あんまり好きじゃない」
大翔が、正直に、そう答えると、大和は、少し真剣な顔をした。
「学力ってのはな、読んで字のごとく、学ぶ力のことなんだよ。この力が無いと、どんな道に進んだとしても、人生、結構、詰むぞ」
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その言葉に、僕は、思わず、涙腺が緩むのを感じた。
航さんが、かつて、大和や、僕に、何度も語ってくれた、あの言葉。
それが、今、大和の口から、次の世代へと、受け継がれていく瞬間を、僕は、目の当たりにしていた。
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「オッサンって、本当は、どんな人だったの?」
ある日、大翔が、そう尋ねてきたことがあった。
僕は、少し考えてから、丁寧に、航さんのことを、語り始めた。
飄々としていて、それでいて、誰よりも、人のことを、真剣に考えてくれた人。
大和と、僕にとって、父のような、兄のような、かけがえのない存在だったこと。
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「その人のこと、大翔に、ちゃんと知っておいてほしいんだ」
僕は、そう続けた。
「大翔の名前にも、その人の存在が、込められているんだよ」
大翔は、まだ、幼いながらも、その話を、真剣な顔で、聞いていた。
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「僕も、いつか、そのオッサンみたいな人に、なれるかな」
大翔が、そう呟いた時、僕は、胸が熱くなった。
「なれると思うよ。大翔なら、きっと」
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こうして、大和は、知らず知らずのうちに、かつて航さんが、僕らにしてくれたのと同じように、大翔にとっての、大切な導き手になっていった。
その姿を見ながら、僕は、確信していた。
航さんの想いは、決して、途絶えることなく、こうして、次の世代へと、静かに、受け継がれていくのだと。




