最終話 受け継がれるもの
その年の、航さんの命日。
僕と大和は、久しぶりに、二人で、彼の墓前を訪れることにした。
*
「今年も、来たぞ」
墓石の前に立ち、大和は、静かに、そう語りかけた。
「相変わらず、色々あったよ、俺たち」
その声には、長年の友人に語りかけるような、穏やかな温かさがあった。
*
僕らは、花を供え、線香を焚き、しばらくの間、静かに、手を合わせていた。
風が、そっと、木々を揺らしていた。
*
「オッサン、覚えてるか」
大和が、ふと、口を開いた。
「最期に言ってくれた、あの言葉」
「うん」
「何があっても、友達でいろって、あれ」
僕は、静かに、頷いた。
*
「あの約束、ちゃんと、守り続けてこられたと思う」
大和は、少し、目を細めた。
「色んなことがあったけどな。それでも、俺たち、ずっと、繋がってこれた」
*
「大和のおかげだよ」
僕は、そう言った。
「僕は、何度も、大和に、助けられてきた。命も、会社も、そして、人生そのものも」
「それを言うなら」
大和は、少し、苦笑した。
「俺の人生を、もう一度、輝かせてくれたのは、お前だろ」
*
「お互い様、ってことだな」
大和が、そう続けると、僕らは、どちらからともなく、笑い合った。
*
「オッサン、聞こえてるか」
大和は、改めて、墓石に向かって、語りかけた。
「俺、無敗のまま、引退したよ。世界の頂点にも、立てた。全部、あんたが、見出してくれた才能のおかげだ」
*
「そして、こいつも」
大和は、僕を、指差した。
「立派に、会社を育てて、家庭も持って、幸せに、やってる」
「僕らの息子には」
僕も、続けて、墓石に語りかけた。
「大翔って、名前を、つけました。大和と、航さん、二人から、一文字ずつもらって」
*
「その子に、いつか、あんたの話を、ちゃんと聞かせるつもりです」
僕は、そう続けた。
「あなたが、僕らに、どれだけのものを、与えてくれたか。その全てを、次の世代にも、伝えていきたいと思ってます」
*
しばらくの沈黙の後、大和が、静かに、言葉を継いだ。
「なあ、晴信」
「うん?」
「俺たち、ちゃんと、あんたの期待に、応えられてるかな」
その問いかけに、僕は、確信を込めて、答えた。
「応えられてると、思うよ」
*
「僕の名前は、武田信玄からとった名前だった」
僕は、ふと、そう切り出した。
「戦国最強と謳われた武将の名前を持ちながら、いじめられっ子で、何もできない、情けない子供だった」
「懐かしいな、その話」
大和が、少し、笑った。
*
「でも、今なら、思えるんだ」
僕は、続けた。
「あの、名前負けし続けた日々があったからこそ、今の僕がいる。航さんに出会って、大和に出会って、多くの人に、支えられて。ようやく、自分の名前に、少しは、追いつけた気がしてる」
*
「立派になったな、本当に」
大和が、そう呟いた。
「昔の、おどおどしてたお前からは、想像もつかねえよ」
「大和のおかげだよ、それも」
僕がそう言うと、大和は、少し、照れくさそうに笑った。
*
墓前を後にする道すがら、僕らは、これまでの日々を、振り返りながら、歩いていた。
「これから先も、色々あるだろうな」
大和が、そう言った。
「大翔が大きくなったら、また、色々、教えてやりたいと思ってる」
「うん、頼むよ」
*
「なあ、大和」
僕は、改めて、そう切り出した。
「これからも、ずっと、友達でいてくれるよな」
その問いに、大和は、当たり前だという顔で、頷いた。
「何、今更。当たり前だろ」
*
その言葉に、僕は、心の底から、安堵した。
あの日、航さんが、僕らに託してくれた約束。
それは、これから先、僕らの子供たちの世代にも、きっと、受け継がれていくのだろう。
*
振り返れば、長い、長い道のりだった。
いじめから救われた、あの日から。多くの喪失を経て、多くの再生を経て、僕らは、今、ここに立っている。
武田晴信という、名前負けだった少年は、多くの人々に支えられ、ようやく、自分自身の物語を、歩き切ることができた。
*
そして、この物語は、ここで終わるわけではない。
大翔が、そして、これから生まれてくる、次の世代が、また、新しい物語を、紡いでいくことだろう。
航さんから、大和へ。大和から、僕へ。そして、僕らから、次の世代へ。
受け継がれていくものは、決して、絶えることはない。
その確かな希望を胸に、僕らは、また、それぞれの日常へと、歩みを進めていった。
*
――何があっても、ずっと友達でいてくれ。
その約束は、これからも、僕らの中で、静かに、そして確かに、生き続けていく。
〈了〉
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
男同士の友情をテーマに、AIさんに頼りつつ描いてみました。
実はこの作品が私の初作品になります。少しでも楽しんで頂けていましたら嬉しいです。
下記の作品を連載中です。こちらもお楽しみいただけたら幸いです。
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