第89話 バイクと後進
引退後、大和は、日本に、拠点を戻すことにした。
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「これから、どうするの?」
僕が、そう尋ねると、大和は、少し考えながら答えた。
「正直、ガチガチに予定決めて生きるのは、性に合わねえんだよな」
「じゃあ、どうするの」
「まあ、気の向くままに、生きてみようと思ってる」
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その言葉通り、大和の引退後の生活は、驚くほど、自由なものだった。
あの、教習所で取得したバイクの免許を活かし、大和は、時間を見つけては、全国各地を、ツーリングして回るようになった。
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「今日は、どの辺にいるの?」
時折、僕が、そう連絡すると、大和からは、様々な地名が、返ってくるようになった。
北海道の広大な道、沖縄の海沿いの道。日本全国、大和が訪れた場所は、実に、多岐にわたっていた。
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「なんか、航さんが、乗ってたバイクのこと、思い出すよ」
僕が、そう言うと、大和は、少し懐かしそうな声で、答えた。
「ああ。今、この景色、オッサンにも、見せてやりたいって、よく思うんだよな」
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その一方で、大和は、後進の指導にも、気が向いた時には、積極的に関わるようになっていった。
「桜井大和が、たまに顔を出す」
そんな噂を聞きつけて、多くの若手選手たちが、大和の指導を、心待ちにするようになった。
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「教えるの、性に合ってるみたいだね」
僕が、そう言うと、大和は、少し照れくさそうに笑った。
「柄でもねえと思ってたんだけどな。案外、性に合ってるのかもしれねえ」
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「昔、オッサンに、色々教えてもらったの、思い出すんだよ」
大和は、そう続けた。
「あの時、俺が教えてもらったこと、今度は、俺が、次の世代に、伝えていく番なのかもな」
その言葉に、僕は、深い感慨を覚えた。
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女性関係についても、何度か、良い出会いがあったという話は、聞いていた。
「結婚とか、考えないの?」
僕が、そう尋ねたことがあった。
「うーん、正直、今の生活が、性に合ってるんだよな」
大和は、そう答えた。
「特定の誰かに縛られるより、気ままに生きる方が、俺には、向いてる気がする」
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「それに」
大和は、少し悪戯っぽく、続けた。
「お前んとこの子供たちが、俺にとっての、家族みたいなもんだからな」
その言葉に、僕は、思わず、笑ってしまった。
「勝手に、家族にしないでよ」
「いいだろ、別に」
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こうして、大和は、無敗のボクサー、そして総合格闘家という肩書きを持ちながらも、驚くほど、飄々とした、自由な日々を、送るようになっていった。
その生き方は、どこか、かつての航さんの姿と、重なって見えた。
バイクを愛し、後進を導き、独身のまま、自由に生きる。
大和は、知らず知らずのうちに、亡き師の生き方を、受け継いでいたのかもしれない。




