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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第5部 その後編

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88/93

第88話 静かな決断

 引退の意思を固めた大和は、アメリカの団体、そして「VICTOR」の黒崎代表に、その旨を伝えた。


     *


「そうか。桜井選手が、そう決めたのなら」


 黒崎代表は、電話越しに、少し寂しそうな声で、そう言った。


「無敗のまま終わるというのは、選手として、最高の形かもしれませんね。よく、ここまで、頑張ってくれました」


 その言葉に、大和は、深く感謝を伝えたという。


     *


 引退発表の記者会見は、日本で、行われることになった。


 僕も、その会見に、同席させてもらうことになった。


     *


「本日は、お集まりいただき、ありがとうございます」


 会見場で、大和は、そう切り出した。


「私、桜井大和は、この度、現役を引退することを、決意いたしました」


 その発表に、会場は、静かな驚きに包まれた。


     *


「ボクシングから、総合格闘技へ。畑違いの世界に飛び込んでからの数年間は、決して、平坦な道のりではありませんでした」


 大和は、これまでの歩みを、一つ一つ、丁寧に振り返っていった。


「それでも、多くの方々に支えられ、ここまで、無敗のまま、キャリアを全うすることができました」


     *


「特に」


 大和は、少し声を詰まらせながら、続けた。


「私の再起を、誰よりも信じ、支え続けてくれた、大切な友人がいます。彼がいなければ、今の私は、存在していませんでした」


 その言葉に、会場の視線が、僕の方へと、集まった。


     *


「そして、今は亡き、私の恩師にも、この場を借りて、感謝を伝えたいと思います」


 大和は、天を仰ぐように、少し目を閉じた。


「あなたが見出してくれた才能を、私は、こうして、最後まで、全うすることができました。ありがとうございました」


     *


 その言葉に、僕は、涙を堪えることができなかった。


 航さんへの想いを、こんな公の場で、大和が、はっきりと言葉にしたのは、初めてのことだった。


     *


「これから、私は、選手としてではなく、また新しい形で、この競技や、後進の育成に、関わっていければと思っています」


 大和は、そう締めくくった。


「長い間、応援してくださった皆様、本当に、ありがとうございました」


     *


 会見後、僕は、控室で、大和と、二人きりで、向き合った。


「お疲れ様」


 僕がそう言うと、大和は、大きく息を吐き出した。


「終わったな、色々」


「そうだね」


     *


「なんか、実感、まだ、あんまり湧かねえよ」


 大和は、そう言いながら、少し笑った。


「これから、何して生きていこうかって、正直、まだ、はっきり決めてねえし」


「ゆっくり、考えればいいよ」


 僕がそう言うと、大和は、頷いた。


「そうだな」


     *


「本当に、お疲れ様、大和」


 僕は、改めて、そう伝えた。


「長い戦いだったな、本当に」


 その言葉に、大和は、静かに、頷いた。


「ああ。でも、悪くない人生だったよ、振り返ってみれば」


     *


 こうして、大和は、無敗のまま、静かに、現役生活に、幕を下ろした。


 これまでの全ての戦いが、この瞬間、確かな意味を持って、大和の人生に、刻まれていた。

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