第88話 静かな決断
引退の意思を固めた大和は、アメリカの団体、そして「VICTOR」の黒崎代表に、その旨を伝えた。
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「そうか。桜井選手が、そう決めたのなら」
黒崎代表は、電話越しに、少し寂しそうな声で、そう言った。
「無敗のまま終わるというのは、選手として、最高の形かもしれませんね。よく、ここまで、頑張ってくれました」
その言葉に、大和は、深く感謝を伝えたという。
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引退発表の記者会見は、日本で、行われることになった。
僕も、その会見に、同席させてもらうことになった。
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「本日は、お集まりいただき、ありがとうございます」
会見場で、大和は、そう切り出した。
「私、桜井大和は、この度、現役を引退することを、決意いたしました」
その発表に、会場は、静かな驚きに包まれた。
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「ボクシングから、総合格闘技へ。畑違いの世界に飛び込んでからの数年間は、決して、平坦な道のりではありませんでした」
大和は、これまでの歩みを、一つ一つ、丁寧に振り返っていった。
「それでも、多くの方々に支えられ、ここまで、無敗のまま、キャリアを全うすることができました」
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「特に」
大和は、少し声を詰まらせながら、続けた。
「私の再起を、誰よりも信じ、支え続けてくれた、大切な友人がいます。彼がいなければ、今の私は、存在していませんでした」
その言葉に、会場の視線が、僕の方へと、集まった。
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「そして、今は亡き、私の恩師にも、この場を借りて、感謝を伝えたいと思います」
大和は、天を仰ぐように、少し目を閉じた。
「あなたが見出してくれた才能を、私は、こうして、最後まで、全うすることができました。ありがとうございました」
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その言葉に、僕は、涙を堪えることができなかった。
航さんへの想いを、こんな公の場で、大和が、はっきりと言葉にしたのは、初めてのことだった。
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「これから、私は、選手としてではなく、また新しい形で、この競技や、後進の育成に、関わっていければと思っています」
大和は、そう締めくくった。
「長い間、応援してくださった皆様、本当に、ありがとうございました」
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会見後、僕は、控室で、大和と、二人きりで、向き合った。
「お疲れ様」
僕がそう言うと、大和は、大きく息を吐き出した。
「終わったな、色々」
「そうだね」
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「なんか、実感、まだ、あんまり湧かねえよ」
大和は、そう言いながら、少し笑った。
「これから、何して生きていこうかって、正直、まだ、はっきり決めてねえし」
「ゆっくり、考えればいいよ」
僕がそう言うと、大和は、頷いた。
「そうだな」
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「本当に、お疲れ様、大和」
僕は、改めて、そう伝えた。
「長い戦いだったな、本当に」
その言葉に、大和は、静かに、頷いた。
「ああ。でも、悪くない人生だったよ、振り返ってみれば」
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こうして、大和は、無敗のまま、静かに、現役生活に、幕を下ろした。
これまでの全ての戦いが、この瞬間、確かな意味を持って、大和の人生に、刻まれていた。




