第85話 世界のリング
アメリカでの生活は、大和にとって、想像以上に、過酷なものだったという。
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「言葉、全然、通じねえんだよ、最初は」
電話越しに、大和は、そう苦笑していた。
「トレーニングの指示も、身振り手振りで、なんとか理解する感じでさ」
それでも、大和は、持ち前の真面目さで、少しずつ、その環境に、適応していった。
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現地での練習は、これまで以上に、レベルの高いものだったという。
「世界レベルの選手たちと、毎日、練習できる環境なんだ」
大和は、興奮した様子で、そう語っていた。
「正直、圧倒される場面も多いけど、それ以上に、学ぶことが、たくさんある」
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現地デビュー戦は、僅差の判定勝ちだった。
「正直、危なかったよ」
試合後、大和は、そう振り返っていた。
「レベルの高さを、身をもって、実感した試合だった」
その経験を糧に、大和は、さらに、練習に打ち込んでいった。
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二戦目、三戦目と、大和は、着実に、実力を証明していった。
英語でのインタビューにも、たどたどしいながらも、真摯に答える大和の姿は、現地のファンからも、次第に、支持を集めるようになっていった。
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そして、渡米から一年半ほどが経った頃。
大和に、王座への挑戦権が、巡ってきた。
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「ついに、ここまで来たか」
試合前夜、電話越しに、僕は、そう声をかけた。
「ああ」
大和の声には、これまでにない、静かな覚悟が滲んでいた。
「オッサンにも、この試合、見せたいな」
「見てるよ、きっと」
僕がそう言うと、大和は、少し笑ったような気配がした。
「そうだな」
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試合当日、僕は、日本から、リアルタイムで配信を見守っていた。
葵さんも、隣で、緊張した面持ちで、画面を見つめていた。
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対戦相手は、王者として、長く君臨してきた実力者だった。
試合は、一進一退の、激しい攻防が続いた。
大和は、これまで培ってきた、距離を支配する戦い方を、忠実に実践していた。
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三ラウンド目、大和は、相手の隙を見逃さなかった。
正確なカウンターが、相手の顎を捉える。
その一撃で、試合の流れが、完全に、大和のものとなった。
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最終ラウンド終了のゴングが鳴った時、判定は、僅差ながらも、大和に軍配が上がった。
「王者、交代!!」
その瞬間、僕は、画面の前で、思わず、立ち上がっていた。
「やった……!」
葵さんも、涙を流しながら、拍手を送っていた。
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王座を手にした大和は、リングの中央で、両手を高く突き上げた。
その姿は、かつて、ボクシングで日本チャンピオンになった時とは、また違う、深い感慨を、僕に与えていた。
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試合後、電話越しに聞こえた大和の声は、興奮と、そして、静かな感慨が入り混じっていた。
「やっと、ここまで来たよ」
「本当に、おめでとう」
僕が、そう伝えると、大和は、少し声を詰まらせながら、続けた。
「オッサン、見ててくれたかな」
その言葉に、僕は、確信を込めて答えた。
「見てたよ。絶対に、見てた」
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こうして、大和は、海を越えた地で、世界の頂点に、その名を刻んだ。
これまでの全ての苦難、全ての想いが、この瞬間、確かな栄光として、結実していた。




