第84話 海を越えて
「正式に、オファーが来ました」
黒崎代表から、そう連絡があったのは、それから、数週間後のことだった。
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「アメリカの大手総合格闘技団体からです。桜井選手の試合映像を見て、ぜひ、うちの舞台で戦ってほしいと」
その報せに、僕は、胸が高鳴るのを感じた。
「これは、大和にとって、大きなチャンスですね」
「はい。ただ」
黒崎代表は、少し表情を曇らせた。
「うちとしては、正直、複雑な心境でもあります。桜井選手は、うちの看板選手に、育ちつつありましたから」
その言葉に、僕は、頷いた。
「でも、彼にとって、最善の道を、選んでほしいと思っています」
「分かっています。だからこそ、私も、この話を、隠さずに、お伝えしました」
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その夜、僕は、大和に、このオファーのことを伝えた。
「アメリカ……?」
大和は、驚いた様子で、そう繰り返した。
「うん。向こうの団体が、大和のことを、高く評価してくれてるみたいだ」
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「正直、実感湧かねえよ」
大和は、そう言いながらも、その目には、隠しきれない興奮の色が浮かんでいた。
「オッサンが、いつか、世界で戦いたいって、ボクシング時代、よく言ってたんだよな」
「そうだったの?」
「ああ。まあ、俺自身は、ボクシングじゃ、その夢、叶えられなかったけど」
大和は、少し遠い目をした。
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「まさか、こんな形で、世界の舞台に立てるチャンスが来るとはな」
その言葉に、僕は、胸が熱くなった。
「行きたい?」
僕が、そう尋ねると、大和は、迷わず、頷いた。
「行きたい。挑戦してみたい」
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決断は、早かった。
大和は、すぐに、アメリカ行きを決意した。
「言葉の壁とか、生活環境とか、色々、大変だとは思うけどな」
大和は、そう言いながらも、その表情には、確かな決意が滲んでいた。
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「僕も、できる限り、サポートするよ」
僕は、そう約束した。
「渡航の手続きとか、向こうでの生活の準備とか、何でも協力する」
「ありがとうな」
大和は、素直に、そう言った。
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「葵さんにも、報告しなきゃな」
僕がそう言うと、大和は、少し照れくさそうに頷いた。
「奥さんにも、世話になりっぱなしだしな」
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その夜、葵さんに、この報せを伝えると、彼女は、目を輝かせて、喜んでくれた。
「すごい! 世界の舞台で戦うなんて」
「うん。応援したいと思ってる」
「もちろん。私も、全力で応援する」
その言葉に、僕は、心強さを感じた。
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こうして、大和は、新たな挑戦の地――アメリカへと、旅立つ準備を始めることになった。
その道のりは、決して平坦なものではないだろう。それでも、大和の目には、これまでにない、力強い光が、宿っていた。
この挑戦の先に、どんな未来が待っているのか。
僕らは、その答えを、これから、共に見届けていくことになる。




