第82話 デビュー戦
リングに上がった大和は、対戦相手――「タイフーン風間」こと、風間隼と、対峙していた。
風間は、その名の通り、荒々しい打撃を武器とする選手だった。がっしりとした体格から繰り出される拳は、見るからに、破壊力を感じさせた。
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ゴングが、鳴った。
試合開始と同時に、風間が、猛然と距離を詰めてきた。
噂通りの、暴風のような連打。大和は、それを、慎重に、後方へ捌きながら、様子を窺っていた。
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「桜井、下がるだけか!?」
観客席から、そんな声が飛んだ。
でも、僕には、分かっていた。これは、大和なりの、冷静な戦略だった。
打撃の間合いを、正確に測る。組み付かれないよう、常に、距離を意識する。
練習で、何度も、何度も、繰り返してきたことだった。
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二分ほど、探り合うような展開が続いた。
風間が、痺れを切らしたように、大きなタックルを仕掛けてきた。
その瞬間、僕は、思わず、息を止めた。
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大和の腰が、素早く落ちた。
練習で、何百回も繰り返してきた、テイクダウンディフェンスの動き。
風間の突進を、しっかりと受け止め、崩されることなく、その場に踏みとどまった。
「効いてないぞ!」
僕は、思わず、声を上げていた。
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組み付いてきた風間を、大和は、力任せに、押し返した。
距離が、再び、開いた。
その瞬間だった。
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風間が、体勢を立て直そうとした、ほんの一瞬の隙。
大和の右拳が、まるで、光のような速さで、風間の顎を捉えた。
乾いた、重い音が、会場に響いた。
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風間の体が、糸の切れた人形のように、崩れ落ちた。
レフェリーが、慌てて駆け寄り、試合の続行が不可能であることを、確認する。
「ストップ!!」
その声と共に、レフェリーが、両手を大きく交差させた。
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「ノックアウト!! 勝者、桜井大和!!」
アナウンスが、会場に響き渡った瞬間、地鳴りのような歓声が、アリーナ全体を、包み込んだ。
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僕は、思わず、立ち上がっていた。
「やった……! やったぞ、大和!!」
声を張り上げながら、僕は、涙が止まらなくなっていた。
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リングの上で、大和は、しばらく、呆然と立ち尽くしていた。
やがて、その顔に、これまで見たことのないような、晴れやかな笑顔が浮かんだ。
両手を高く突き上げ、観客の声援に応える大和の姿を、僕は、心の底から、誇らしく思っていた。
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試合後のインタビューで、大和は、興奮を隠しきれない様子で、こう語った。
「畑違いの世界で、正直、不安だらけだった。でも、今日、リングに上がって、確信した。俺は、まだ、戦える。まだ、輝ける場所が、あるんだって」
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その言葉を、僕は、客席から、噛み締めるように聞いていた。
あの日、動画配信サイトで見た、一つの映像から始まった、この挑戦。
多くの困難を乗り越えて、大和は、ついに、新しい舞台で、輝きを取り戻した。
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これは、終わりではなく、始まりだった。
大和にとっての、新しい人生の、第一歩。
その隣で、僕もまた、これから続く、彼の新しい戦いを、支え続けていくことを、改めて、心に誓っていた。




