第81話 試合当日
デビュー戦当日。
会場となる大型アリーナは、開場前から、すでに、大勢の観客で賑わっていた。
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「緊張してるか」
控室で、僕は、大和に、そう声をかけた。
「まあな」
大和は、いつになく、硬い表情をしていた。
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「入場前に、少し、見てほしい映像があるんです」
スタッフが、そう言って、控室のモニターに、映像を映し出した。
「なんだよ、これ」
大和が、怪訝そうな顔をした。
「桜井選手の、これまでの物語を紹介する、煽り映像です。本人には、まだ、見せていませんでした」
その説明に、大和は、少し驚いた様子で、僕の方を見た。
僕は、何も言わず、ただ、頷いた。
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映像が、再生され始めた。
大和のボクシング時代の映像。日本チャンピオン、東洋太平洋チャンピオンとして、輝いていた頃の姿。
そして、ナレーションが、静かに、彼の半生を、語り始めた。
友人を守るために、全てを賭けた男。その代償として、輝かしいキャリアを、失った男。
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映像は、やがて、僕のインタビュー場面へと、切り替わった。
「桜井さんとの出会いから、教えていただけますか」
画面の中の僕は、これまでの記憶を、一つ一つ、丁寧に、語っていた。
高校時代のいじめ。大和との出会い。航さんとの日々。誘拐未遂事件。そして、会社を守るための行動。
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「桜井さんは、あなたにとって、どんな存在ですか」
その質問に、画面の中の僕は、少し声を震わせながら、答えていた。
「命の恩人であり、それ以上に、人生そのものを、支え続けてくれた存在です。彼がいなければ、今の僕は、存在していません」
その言葉を、大和は、食い入るように、見つめていた。
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「今回、桜井さんが、総合格闘技に挑戦することについて、どう思われますか」
その質問への、僕の答えが、控室に、静かに響いた。
「自分だけが運良く高みに昇り、彼だけが落ちていくことに、僕は、今更ながら、納得していません。彼が、道を踏み外すなら、その先に道を作る。彼が、地獄に落ちるなら、僕が、救い上げる」
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「今後、桜井さんが、どんな結果になろうとも」
映像の中の僕は、まっすぐに、カメラを見つめながら、続けていた。
「僕だけは、彼の味方であり続けます。今後も、ずっと、友達であり続けます」
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映像が終わると、控室は、しばらく、静寂に包まれていた。
大和は、僕の方を、じっと見つめていた。その目には、うっすらと、涙が浮かんでいた。
「……お前、こんなこと、いつの間に」
その声は、震えていた。
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「サプライズにしたかったんだ」
僕は、少し照れくさそうに、そう答えた。
「あの日、教習所の前で言った言葉、本気だったから。それを、ちゃんと、形にしたかった」
大和は、しばらく、何も言えずにいた。
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「ありがとう」
やがて、絞り出すように、そう呟いた。
「これで、腹、決まったよ」
その言葉に、僕は、力強く頷いた。
「行ってこい、大和」
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入場のアナウンスが、会場に響き渡った。
大和が、花道を歩き始めると、観客席から、地鳴りのような歓声が沸き起こった。
あの映像が、すでに、大型ビジョンで、開場前から、繰り返し流されていたのだという。
観客の多くは、すでに、大和の物語を、知っていた。
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「桜井、頑張れ!」
「絶対に、勝てよ!」
様々な声援が、会場中から、飛び交っていた。
その声援を一身に受けながら、リングへと向かう大和の背中を、僕は、客席から、じっと見つめていた。
これまでの全ての苦難が、この瞬間のために、あったのかもしれない。
そんな想いを抱きながら、僕は、これから始まる、大和の新しい戦いの、行方を見守った。




