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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第4部 再起編

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81/93

第81話 試合当日

 デビュー戦当日。


 会場となる大型アリーナは、開場前から、すでに、大勢の観客で賑わっていた。


     *


「緊張してるか」


 控室で、僕は、大和に、そう声をかけた。


「まあな」


 大和は、いつになく、硬い表情をしていた。


     *


「入場前に、少し、見てほしい映像があるんです」


 スタッフが、そう言って、控室のモニターに、映像を映し出した。


「なんだよ、これ」


 大和が、怪訝そうな顔をした。


「桜井選手の、これまでの物語を紹介する、煽り映像です。本人には、まだ、見せていませんでした」


 その説明に、大和は、少し驚いた様子で、僕の方を見た。


 僕は、何も言わず、ただ、頷いた。


     *


 映像が、再生され始めた。


 大和のボクシング時代の映像。日本チャンピオン、東洋太平洋チャンピオンとして、輝いていた頃の姿。


 そして、ナレーションが、静かに、彼の半生を、語り始めた。


 友人を守るために、全てを賭けた男。その代償として、輝かしいキャリアを、失った男。


     *


 映像は、やがて、僕のインタビュー場面へと、切り替わった。


「桜井さんとの出会いから、教えていただけますか」


 画面の中の僕は、これまでの記憶を、一つ一つ、丁寧に、語っていた。


 高校時代のいじめ。大和との出会い。航さんとの日々。誘拐未遂事件。そして、会社を守るための行動。


     *


「桜井さんは、あなたにとって、どんな存在ですか」


 その質問に、画面の中の僕は、少し声を震わせながら、答えていた。


「命の恩人であり、それ以上に、人生そのものを、支え続けてくれた存在です。彼がいなければ、今の僕は、存在していません」


 その言葉を、大和は、食い入るように、見つめていた。


     *


「今回、桜井さんが、総合格闘技に挑戦することについて、どう思われますか」


 その質問への、僕の答えが、控室に、静かに響いた。


「自分だけが運良く高みに昇り、彼だけが落ちていくことに、僕は、今更ながら、納得していません。彼が、道を踏み外すなら、その先に道を作る。彼が、地獄に落ちるなら、僕が、救い上げる」


     *


「今後、桜井さんが、どんな結果になろうとも」


 映像の中の僕は、まっすぐに、カメラを見つめながら、続けていた。


「僕だけは、彼の味方であり続けます。今後も、ずっと、友達であり続けます」


     *


 映像が終わると、控室は、しばらく、静寂に包まれていた。


 大和は、僕の方を、じっと見つめていた。その目には、うっすらと、涙が浮かんでいた。


「……お前、こんなこと、いつの間に」


 その声は、震えていた。


     *


「サプライズにしたかったんだ」


 僕は、少し照れくさそうに、そう答えた。


「あの日、教習所の前で言った言葉、本気だったから。それを、ちゃんと、形にしたかった」


 大和は、しばらく、何も言えずにいた。


     *


「ありがとう」


 やがて、絞り出すように、そう呟いた。


「これで、腹、決まったよ」


 その言葉に、僕は、力強く頷いた。


「行ってこい、大和」


     *


 入場のアナウンスが、会場に響き渡った。


 大和が、花道を歩き始めると、観客席から、地鳴りのような歓声が沸き起こった。


 あの映像が、すでに、大型ビジョンで、開場前から、繰り返し流されていたのだという。


 観客の多くは、すでに、大和の物語を、知っていた。


     *


「桜井、頑張れ!」

「絶対に、勝てよ!」


 様々な声援が、会場中から、飛び交っていた。


 その声援を一身に受けながら、リングへと向かう大和の背中を、僕は、客席から、じっと見つめていた。


 これまでの全ての苦難が、この瞬間のために、あったのかもしれない。


 そんな想いを抱きながら、僕は、これから始まる、大和の新しい戦いの、行方を見守った。

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