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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第4部 再起編

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第80話 煽り動画

「デビュー戦の対戦相手が、決まりました」


 黒崎代表から、そう連絡があったのは、練習開始から、三ヶ月ほどが経った頃だった。


     *


「相手は、『タイフーン風間』、本名、風間隼という選手です」


 黒崎代表は、そう説明した。


「うちの団体で、四天王の一人に数えられる、実力者です」


 その名前に、僕は、少し驚いた。


「四天王……。そんな強豪と、いきなり、当てて大丈夫なんですか」


     *


「正直に言いますとね」


 黒崎代表は、少し悪戯っぽく、笑った。


「桜井選手が、これまで、なかなか試合を組んでもらえなかった経緯、色々調べさせてもらいました。実力があるのに、正当に評価されてこなかった。だったら、うちは、そんなケチな真似はしたくないんです」


「それに」


 黒崎代表は、続けた。


「スポンサー様の推しの選手だ。中途半端な相手をぶつけて、こぢんまり終わらせるより、こっちも、うちの看板を出して、真っ向勝負をさせた方が、面白いでしょう」


 その言葉に、僕は、胸が熱くなった。


     *


「風間選手というのは、どんな選手なんですか」


 僕が、そう尋ねると、黒崎代表は、資料を見せながら、説明した。


「典型的な、打撃系のファイターです。組技もできますが、基本的には、殴り合いを好むタイプ。桜井選手とは、スタイル的に、噛み合うと思いますよ」


「噛み合う、というのは」


「お互い、打撃で勝負したがるタイプ同士だと、序盤から、激しい打ち合いになりやすいんです。観客としても、盛り上がる展開になる可能性が高い」


     *


「実は」


 黒崎代表は、少し声のトーンを変えて、続けた。


「この試合を、次の大型興行の、メインカードに据えようと思っています。うちとしても、かなり力を入れた興行にする予定です」


 その規模の大きさに、僕は、身の引き締まる思いがした。


     *


 それに伴い、「VICTOR」側から、一つの提案があった。


「これだけの規模の興行になると、桜井選手の物語性を、しっかり伝える、煽り映像を制作したいんです」


 黒崎代表は、そう説明した。


「総合格闘技の興行では、選手の背景を伝える映像が、観客の感情を動かす、重要な要素になります。桜井選手の場合、その物語は、非常に強い力を持っていると思います」


     *


「具体的には、どういった内容を?」


 僕が、そう尋ねると、黒崎代表は、資料を見せながら、説明を続けた。


「桜井選手が、これまで、どんな道のりを歩んできたのか。そして、なぜ、この舞台に立つことを決意したのか。それを、しっかりと伝えたいと思っています」


     *


「もし、可能であれば」


 黒崎代表は、少し言いにくそうに、続けた。


「武田さんにも、インタビューという形で、出演していただけないでしょうか。桜井選手を、これまで支えてきた存在として」


 その提案に、僕は、少し戸惑った。


     *


「僕が、ですか」


「はい。武田さんと桜井選手の関係性は、この物語の、核となる部分だと思います。ぜひ、ご協力いただきたいです」


 僕は、しばらく、考え込んだ。


 これまで、経営者として、メディアに出ることには、慣れていた。それでも、こんなにも個人的な話を、公の場で語ることには、抵抗があった。


     *


「ちなみに、この映像のことは、桜井選手には」


 僕が、そう尋ねると、黒崎代表は、少し悪戯っぽい表情を見せた。


「まだ、伝えていません。当日、サプライズという形で、本人にも見てもらう演出にしたいと思っています」


 その提案に、僕は、少し迷いながらも、頷いた。


「分かりました。それで、進めてください」


     *


 撮影は、数日にわたって行われた。


 大和の練習風景、これまでの経歴を振り返るナレーション。そして、僕へのインタビューも、丁寧に撮影されていった。


 カメラの前で、僕は、これまでの記憶を、一つずつ、辿りながら、正直な想いを、語った。


 高校時代のこと、大和との出会い、航さんとの日々、そして、これまでの全ての出来事。


 その時、僕が何を語ったのかは、また後で、触れることになると思う。


     *


 撮影を終えた後、僕は、大きな解放感と、同時に、身が引き締まるような感覚を覚えていた。


 この映像が、多くの人の心に、どう届くのか。


 その答えは、デビュー戦当日、明らかになることになる。

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