第75話 畑違いの世界へ
大和が、出場を決意してくれてから、僕は、すぐに、「VICTOR」の黒崎代表に連絡を取った。
「桜井さんが、出場を了承してくれました」
その報告に、黒崎代表は、少し驚いたような声を出した。
「本当ですか。それは、良かった」
「これから、総合格闘技専門のジムで、練習を始めることになると思います」
「うちが提携している、いいジムがあります。ご紹介しますよ」
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紹介されたのは、都内にある、総合格闘技専門のジムだった。
会長は、元総合格闘家だという、恰幅の良い男性だった。
「桜井さんのことは、話は聞いてます。ボクシングでの実績は、本当にすごいですね」
「よろしくお願いします」
大和は、緊張した面持ちで、頭を下げた。
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初日の練習は、大和にとって、驚きの連続だったという。
「ボクシングと、全然、勝手が違うんだよ」
その日の帰り道、大和は、疲れた様子で、そう漏らした。
「立ち技だけじゃなくて、組んで、投げて、寝技もある。距離感も、間合いの取り方も、全部、今までとは、別物なんだ」
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特に、大和が苦戦したのは、組技だった。
「タックルされて、簡単に倒されるんだよ。ボクシングじゃ、あり得ない体勢に、あっという間に持っていかれる」
大和は、悔しそうに、そう言った。
「殴り合いなら、誰にも負ける気しねえのに。組まれた瞬間、何もできなくなる自分が、情けなくてな」
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「大丈夫だよ」
僕は、そう声をかけた。
「始めたばかりなんだから、うまくいかなくて当たり前だよ」
「分かってるけどよ」
大和は、少し苛立った様子で、そう返した。
「プライドの問題なんだよ。今まで、負けたことのない世界に、いきなり放り込まれて、何もできねえって、正直、しんどい」
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それでも、大和は、練習を休むことはなかった。
毎日、ジムに通い、慣れない組技の練習に、必死に食らいついていった。
「ボクシングやってた頃より、体中、あちこち痛えよ」
自嘲気味に、そう言いながらも、大和の目には、以前にはなかった、新しい種類の熱意が宿っているように見えた。
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「トレーナーの人、どう?」
僕が、そう尋ねると、大和は、少し表情を和らげた。
「厳しいけど、いい人だよ。ボクシングの経験、ちゃんと尊重してくれる。パンチの部分は、そのまま活かせるから、そこは、褒めてもらえた」
その言葉に、僕は、少し安心した。
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「組技は、まだまだだけど」
大和は、少し悔しそうに、続けた。
「打撃の距離なら、絶対に、誰にも負けない自信がある。そこだけは、譲れねえ」
その言葉に、僕は、大和らしい、負けん気の強さを感じた。
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畑違いの世界に飛び込んだ大和は、戸惑いながらも、確かに、前を向いて、歩み始めていた。
その姿を見ながら、僕は、この挑戦が、決して間違っていなかったのだと、少しずつ、確信を深めていった。




