↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第4部 再起編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/93

第72話 出場の打診

「実は、大和に、提案したいことがあるんだ」


 僕は、居住まいを正して、そう切り出した。


「提案?」


 大和は、怪訝そうな顔で、僕を見た。


     *


「総合格闘技の舞台で、もう一度、戦ってみないか」


 僕は、そう切り出した。


 大和は、一瞬、何を言われたのか、理解できないような表情を浮かべた。


「は……? 総合格闘技?」


「うん。ボクシングとは、また違う競技だけど」


     *


「なんで、急に、そんな話……」


 大和は、困惑した様子で、そう尋ねた。


「大和のボクシングでの実績は、本物だ。パンチ力も、実力も、誰もが認めるものだった。それを、また、輝かせられる場所を、作りたいと思ったんだ」


「でも、俺、もう、ボクシングのライセンスは……」


「ボクシングじゃない。総合格闘技の団体に、話をつけてきた」


     *


 その言葉に、大和は、驚いた様子を見せた。


「話をつけたって……お前が?」


「うん。『VICTOR』っていう団体の、スポンサーになったんだ」


 僕は、これまでの経緯を、順を追って説明した。動画配信サイトで見た、あの選手のインタビュー。そこから生まれた構想。そして、団体との交渉。


     *


「正気か、お前」


 大和は、呆れたような、それでいて、どこか動揺したような声で言った。


「畑違いの競技に、こんな自分が出るなんて、考えたこともねえよ」


「大和なら、できると思う」


「甘く見んなよ」


 大和の声には、苛立ちが滲んでいた。


「組技も、投げ技も、俺には、まるで経験がねえ。ボクシングとは、全然違う競技なんだぞ」


     *


「それに」


 大和は、少し声を落として、続けた。


「俺みたいな、前科持ちが、また人前に出て、注目浴びるなんて。お前の会社にも、迷惑かけるんじゃねえのか」


 その言葉に、僕は、首を横に振った。


「それは、僕が、覚悟してることだ。大和の過去も含めて、支えたいと思ってる」


     *


「なんで、そこまでするんだよ」


 大和は、苛立ちと戸惑いが入り混じった声で、そう言った。


「俺は、もう、ボクシングも失った。何もかも失って、正直、この先、何を目標に生きればいいのかも、分からなくなってたんだよ」


 その告白に、僕は、胸が締め付けられる思いがした。


     *


「だからこそ」


 僕は、まっすぐに、大和を見つめた。


「新しい目標を、一緒に見つけたいんだ。大和には、まだ、可能性がある。それを、証明できる場所を、一緒に作りたい」


「簡単に言うなよ」


 大和は、苦しそうな表情で、そう返した。


「畑違いの競技で、恥をさらすだけかもしれねえ。それに、俺は、もう……」


 大和は、言葉を切った。


     *


「もう、何?」


 僕が、そう尋ねると、大和は、しばらく黙り込んだ後、絞り出すように答えた。


「もう、誰かの期待に応えられる自信が、ねえんだよ」


 その言葉に、僕は、何も、すぐには言い返せなかった。


 大和の中にある、深い傷の存在を、改めて実感していた。


     *


「今日は、もう、帰るわ」


 大和は、そう言って、席を立とうとした。


「大和……!」


 僕は、思わず、声を上げた。


「悪いけど、この話は、ちょっと、受けられねえよ」


 大和は、それだけ言い残すと、喫茶店を後にした。


 残された僕は、しばらく、動くことができなかった。


 一度目の説得は、こうして、あえなく、失敗に終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。