第72話 出場の打診
「実は、大和に、提案したいことがあるんだ」
僕は、居住まいを正して、そう切り出した。
「提案?」
大和は、怪訝そうな顔で、僕を見た。
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「総合格闘技の舞台で、もう一度、戦ってみないか」
僕は、そう切り出した。
大和は、一瞬、何を言われたのか、理解できないような表情を浮かべた。
「は……? 総合格闘技?」
「うん。ボクシングとは、また違う競技だけど」
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「なんで、急に、そんな話……」
大和は、困惑した様子で、そう尋ねた。
「大和のボクシングでの実績は、本物だ。パンチ力も、実力も、誰もが認めるものだった。それを、また、輝かせられる場所を、作りたいと思ったんだ」
「でも、俺、もう、ボクシングのライセンスは……」
「ボクシングじゃない。総合格闘技の団体に、話をつけてきた」
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その言葉に、大和は、驚いた様子を見せた。
「話をつけたって……お前が?」
「うん。『VICTOR』っていう団体の、スポンサーになったんだ」
僕は、これまでの経緯を、順を追って説明した。動画配信サイトで見た、あの選手のインタビュー。そこから生まれた構想。そして、団体との交渉。
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「正気か、お前」
大和は、呆れたような、それでいて、どこか動揺したような声で言った。
「畑違いの競技に、こんな自分が出るなんて、考えたこともねえよ」
「大和なら、できると思う」
「甘く見んなよ」
大和の声には、苛立ちが滲んでいた。
「組技も、投げ技も、俺には、まるで経験がねえ。ボクシングとは、全然違う競技なんだぞ」
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「それに」
大和は、少し声を落として、続けた。
「俺みたいな、前科持ちが、また人前に出て、注目浴びるなんて。お前の会社にも、迷惑かけるんじゃねえのか」
その言葉に、僕は、首を横に振った。
「それは、僕が、覚悟してることだ。大和の過去も含めて、支えたいと思ってる」
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「なんで、そこまでするんだよ」
大和は、苛立ちと戸惑いが入り混じった声で、そう言った。
「俺は、もう、ボクシングも失った。何もかも失って、正直、この先、何を目標に生きればいいのかも、分からなくなってたんだよ」
その告白に、僕は、胸が締め付けられる思いがした。
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「だからこそ」
僕は、まっすぐに、大和を見つめた。
「新しい目標を、一緒に見つけたいんだ。大和には、まだ、可能性がある。それを、証明できる場所を、一緒に作りたい」
「簡単に言うなよ」
大和は、苦しそうな表情で、そう返した。
「畑違いの競技で、恥をさらすだけかもしれねえ。それに、俺は、もう……」
大和は、言葉を切った。
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「もう、何?」
僕が、そう尋ねると、大和は、しばらく黙り込んだ後、絞り出すように答えた。
「もう、誰かの期待に応えられる自信が、ねえんだよ」
その言葉に、僕は、何も、すぐには言い返せなかった。
大和の中にある、深い傷の存在を、改めて実感していた。
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「今日は、もう、帰るわ」
大和は、そう言って、席を立とうとした。
「大和……!」
僕は、思わず、声を上げた。
「悪いけど、この話は、ちょっと、受けられねえよ」
大和は、それだけ言い残すと、喫茶店を後にした。
残された僕は、しばらく、動くことができなかった。
一度目の説得は、こうして、あえなく、失敗に終わった。




