第69話 出所の報せ
スポンサー契約を締結してから、僕は、大和の出所予定日を、常に気にかけながら過ごしていた。
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「大和が、出所したそうです」
その報せは、下柳の祖父母からの電話で届いた。
「もう、出てきているんですか」
「はい。ただ……」
祖父の声には、戸惑いが滲んでいた。
「私たちのところにも、あまり顔を出さなくて。今、どこで何をしているのか、正直、詳しくは分からないんです」
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「行き先も、分からないんですか」
僕が、そう尋ねると、祖父は、申し訳なさそうに首を振った。
「いえ……。それも、聞いていません。本当に、何も分からなくて」
「分かりました。他に、何か手がかりがないか、僕の方でも探してみます」
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僕は、大和が最後に所属していた、あの都会の大手ジムを訪ねてみることにした。
ここなら、大和と親しくしていた人間が、まだ在籍しているかもしれない。そう考えたからだった。
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「すみません、以前、こちらに在籍していた、桜井大和さんのことで、少しお伺いしたいのですが」
受付で、そう申し出ると、ジムのスタッフは、少し奥へ引っ込んでから、一人の男を連れて戻ってきた。
「桜井のことで? 俺、健吾っていうんですけど。桜井とは、それなりに仲良くしてたんで」
その名前に、僕は、少し身構えた。以前、大和から、断片的に聞いたことのある名前だった。
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「桜井さん、出所されたと聞いたんですが、連絡が取れなくて。何か、心当たりがあれば、教えていただきたくて」
僕がそう言うと、健吾は、少し考えるような素振りを見せた。
「うーん、そこまで詳しいことは、俺も聞いてないんですけど」
「何でも構いません。些細なことでも」
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「そういえば、出所した後、一回だけ、ジムに顔出したことがあったんですよ」
健吾は、思い出すように、そう言った。
「その時、世間話みたいな感じで、『やることもないし、バイクの免許でも取ろうと思ってる』みたいなこと、言ってたな。それくらいしか、聞いてないですけど」
その言葉に、僕は、少し驚いた。
「バイクの、免許……」
「はい。詳しい理由までは、聞かなかったんですけど」
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その情報に、僕は、思い当たることがあった。
航さんが、バイクに乗っていたことを。
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「もしかしたら、亡くなった、彼の恩師の影響かもしれません」
僕が、そう呟くと、健吾は、少し首を傾げた。
「へえ、そうなんすか。まあ、桜井、あんまり自分のことベラベラ話すタイプじゃなかったんで、俺もよくは知らないんですけど」
その言葉に、僕は、目的を失った大和が、亡き師の面影を追うように、新しい世界に足を踏み入れようとしている姿を想像し、胸が締め付けられる思いがした。
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「情報、ありがとうございます。助かりました」
僕がそう言うと、健吾は、少し気まずそうな顔をした。
「いや、俺の方こそ、色々、桜井には、悪いことしたなって思ってるんで。もし会えたら、頑張れって伝えてもらえますか」
その言葉に、僕は、少し意外な思いを抱きながらも、頷いた。
「分かりました。伝えておきます」
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個人であちこちの教習所を訪ね歩くのは、現実的ではなかった。直接、大和の名前を出して尋ねたところで、個人情報保護の観点から、教習所側も、簡単には教えてくれないだろう。
悩んだ末、僕は、人探しを専門とする調査会社に、依頼することにした。
「桜井大和という人物を、探しています。手がかりは、この街の周辺で、バイクの免許を取るために、教習所に通っているらしい、ということだけです」
事情を、詳しくは話さなかった。ただ、「大切な友人で、どうしても、直接会って伝えたいことがある」とだけ、担当者に伝えた。
「分かりました。教習所への聞き込みも含めて、調べてみます」
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「見つかるといいけど」
結果を待つ間、葵さんが、心配そうに、そう声をかけてくれた。
「うん。何としても、見つけ出す」
僕は、強い決意を込めて、そう答えた。
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数日後、調査会社から、連絡が入った。
「該当する人物が、通っていると思われる教習所が見つかりました。ここ数日の、教習の予定時間帯も、確認できています」
その報告に、僕は、胸が高鳴るのを感じた。
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教えられた教習所の駐車場で、僕は、ついに、見覚えのある背中を見つけた。
少し痩せて見えるその背中は、間違いなく、大和のものだった。
僕は、しばらく、その場に立ち尽くしたまま、動けずにいた。
数年ぶりに見る、大和の姿。かける言葉を、僕は、まだ、見つけられずにいた。
それでも、ここまで来て、引き返すわけにはいかなかった。
僕は、深く息を吸い込み、大和の元へと、一歩ずつ、歩み寄っていった。




