第68話 交渉
「VICTOR」の代表との面会は、思っていたよりも、スムーズに設定することができた。
事業が軌道に乗っていたこともあり、スポンサー候補としての第一印象は、悪くなかったようだった。
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「本日は、お時間をいただき、ありがとうございます」
代表の男性――名前を、黒崎といった――は、鋭い眼光を持ちながらも、物腰は柔らかい人物だった。
「武田さんのことは、以前から存じ上げていますよ。急成長中のSNS、拝見しています」
「ありがとうございます。今日は、スポンサー契約のご相談と、もう一つ、個人的にお願いしたいことがあって伺いました」
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僕は、まず、スポンサー契約についての条件を、丁寧に提示した。
契約金額、期間、そして、ロゴの露出方法など、事務的な部分は、コンサルタントの助言もあり、スムーズに話が進んだ。
「これだけの規模でご支援いただけるのは、非常にありがたいお話です」
黒崎代表は、そう言って、資料に目を通していた。
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「それで、もう一つのお願い、というのは?」
黒崎代表が、そう尋ねてきた。僕は、少し緊張しながら、本題を切り出した。
「実は、僕の大切な友人を、こちらの団体で、選手として出場させていただきたいんです」
「友人、ですか」
「はい。桜井大和という男です。元プロボクサーで、日本チャンピオン、東洋太平洋チャンピオンを経験しています」
その名前に、黒崎代表は、少し眉をひそめた。
「桜井……。もしかして、あの事件の?」
僕は、頷いた。
「はい。詳しい事情は、お話しできる範囲でお伝えします。ただ、彼の実力は、本物です。ボクシングでの実績は、調べていただければ、すぐに分かると思います」
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「正直に申し上げますと」
黒崎代表は、慎重な口調で、続けた。
「ボクシングでの実績は、素晴らしいと思います。ただ、総合格闘技は、また別の競技です。組技も投げ技も未経験で、しかも、二年間のブランクがある。うちの看板選手として迎えるには、正直、未知数な部分が大きいですね」
「承知しています。だからこそ、スポンサーという形で、責任の一端を、僕自身も担いたいと思っています」
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「それと、もう一点」
黒崎代表は、鋭い目で、僕を見た。
「ご本人は、この話を、承知されているんですか」
その質問に、僕は、一瞬、言葉に詰まった。
「……まだ、です。彼は、来月、出所する予定です。出所したら、僕から、直接、話をするつもりです」
「本人の意思が確認できていない状態で、契約を進めるというのは、こちらとしても、少々、リスキーですね」
黒崎代表の言葉は、もっともだった。
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「それでも」
僕は、まっすぐに、黒崎代表を見返した。
「彼が、出場を了承してくれるよう、僕が、必ず説得します。もし、それが叶わなかったとしても」
僕は、少し間を置いてから、続けた。
「スポンサー契約自体は、彼の出場の有無に関わらず、継続させていただきたいと思っています」
その言葉に、黒崎代表は、少し驚いたような顔をした。
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「それは、つまり」
「彼が出場してくれるかどうかは、彼自身の意思に委ねます。ただ、僕は、この団体の理念――過去に挫折した人間に、再起の場を与えるという理念に、心から共感しています。だから、スポンサーとしての支援は、彼の出場が実現するかどうかに関わらず、続けさせてください」
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その言葉に、黒崎代表は、しばらく、何かを考え込んでいた。
「……分かりました。その覚悟があるなら、こちらとしても、協力させていただきます」
黒崎代表は、そう言って、右手を差し出した。
「桜井さんが、出場を了承してくださることを、期待しています」
僕は、その手を、力強く握り返した。
「ありがとうございます。必ず、実現させます」
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こうして、スポンサー契約は、無事に締結された。
あとは、大和本人を説得することだけが、残された最大の課題だった。
その課題の重さを、僕は、これから、身をもって知ることになる。




