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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第3部 すれ違いと危機編

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第61話 誓いの日

 結婚式は、予定通りの日取りで、執り行われることになった。


 準備を進める間、僕の心は、素直に喜べずにいた。本来なら、隣で祝ってくれているはずの、大和がいないままの結婚式。その事実が、ずっと、胸に重くのしかかっていた。


     *


「大和くんのこと、気がかりだよね」


 式の前日、葵さんが、そう声をかけてくれた。


 大和には、当初、結婚式に出席してもらう予定だった。招待状も、真っ先に送っていた。だから、葵さんも、彼の名前と、僕にとって大切な友人だということだけは、知っていた。


 ただ、それ以上の詳しい事情――彼が何をして、なぜ結婚式に来られなくなったのか、逮捕されて実刑判決を受けたことまでは、僕は、まだ話せずにいた。


「うん……。本当なら、来てほしかった」


「あのトラブル以来、結局、一度も会えてないんだよね」


「うん。連絡も、ずっと取れないままで」


「そう、なんだ」


 葵さんは、それ以上、深くは尋ねてこなかった。詳しい事情を話していない僕への、気遣いだったのかもしれない。


「でも、晴信さんが、今、笑顔でいることを、大和くんも、きっと望んでると思うよ」


 その言葉に、僕は、小さく頷いた。


     *


 結婚式当日。


 控室で身支度を整えながら、僕は、これまでの日々を、一つ一つ思い返していた。


 いじめられていた高校時代。大和との出会い。航さんとの日々。大学進学、そして事業の立ち上げ。


 全てが、繋がっている。今、この場所に立っている自分は、あの日々の積み重ねの上に、確かに存在していた。


     *


 式場の入り口で、僕は、一瞬、あり得ない想像をしてしまった。


 もし、大和が、ここにいたら。


 いつもの、素っ気ない態度で、それでも心からの祝福をくれる、あの姿を。


 その想像は、すぐに、現実の寂しさへと変わった。


     *


 式が始まると、僕は、努めて、その場に集中しようとした。


 葵さんの、真っ白なドレス姿。参列してくれた友人、スタッフ、そして、母の姿。


 誓いの言葉を交わす瞬間、僕の脳裏に、ふと、航さんの言葉が蘇った。


「何があっても、ずっと友達でいてくれ」


 あの、通夜の日に交わした約束。その約束を、僕は、今この瞬間も、胸に抱き続けていた。


     *


「誓います」


 その一言を口にした瞬間、僕は、目に涙が浮かぶのを感じた。


 葵さんとの、これからの人生への誓い。そして、心の中で、もう一つの誓いを、静かに立てていた。


 ――大和、必ず、お前を、この場所に連れ戻す。


 その決意を、この日、僕は、静かに固めていた。


     *


 披露宴では、母が、涙を堪えきれずに、何度もハンカチで目元を押さえていた。


「晴信、本当に、おめでとう」


 その言葉に込められた、これまでの苦労と喜びを、僕は、深く噛み締めた。


     *


 式の終わり、僕は、こっそりと、大和にメッセージを送った。


『今日、結婚式だったよ。本当は、大和にも見てほしかった』


 既読は、つかなかった。それでも、僕は、送らずにはいられなかった。


     *


 人生で最も幸せな一日のはずだった。


 それでも、その幸せの中に、一つだけ、埋められない空白があった。


 その空白を埋めるために、僕は、これから、何ができるのか。


 まだ、その答えは、見えていなかった。それでも、僕の中には、確かな決意だけが、静かに灯っていた。

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