第61話 誓いの日
結婚式は、予定通りの日取りで、執り行われることになった。
準備を進める間、僕の心は、素直に喜べずにいた。本来なら、隣で祝ってくれているはずの、大和がいないままの結婚式。その事実が、ずっと、胸に重くのしかかっていた。
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「大和くんのこと、気がかりだよね」
式の前日、葵さんが、そう声をかけてくれた。
大和には、当初、結婚式に出席してもらう予定だった。招待状も、真っ先に送っていた。だから、葵さんも、彼の名前と、僕にとって大切な友人だということだけは、知っていた。
ただ、それ以上の詳しい事情――彼が何をして、なぜ結婚式に来られなくなったのか、逮捕されて実刑判決を受けたことまでは、僕は、まだ話せずにいた。
「うん……。本当なら、来てほしかった」
「あのトラブル以来、結局、一度も会えてないんだよね」
「うん。連絡も、ずっと取れないままで」
「そう、なんだ」
葵さんは、それ以上、深くは尋ねてこなかった。詳しい事情を話していない僕への、気遣いだったのかもしれない。
「でも、晴信さんが、今、笑顔でいることを、大和くんも、きっと望んでると思うよ」
その言葉に、僕は、小さく頷いた。
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結婚式当日。
控室で身支度を整えながら、僕は、これまでの日々を、一つ一つ思い返していた。
いじめられていた高校時代。大和との出会い。航さんとの日々。大学進学、そして事業の立ち上げ。
全てが、繋がっている。今、この場所に立っている自分は、あの日々の積み重ねの上に、確かに存在していた。
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式場の入り口で、僕は、一瞬、あり得ない想像をしてしまった。
もし、大和が、ここにいたら。
いつもの、素っ気ない態度で、それでも心からの祝福をくれる、あの姿を。
その想像は、すぐに、現実の寂しさへと変わった。
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式が始まると、僕は、努めて、その場に集中しようとした。
葵さんの、真っ白なドレス姿。参列してくれた友人、スタッフ、そして、母の姿。
誓いの言葉を交わす瞬間、僕の脳裏に、ふと、航さんの言葉が蘇った。
「何があっても、ずっと友達でいてくれ」
あの、通夜の日に交わした約束。その約束を、僕は、今この瞬間も、胸に抱き続けていた。
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「誓います」
その一言を口にした瞬間、僕は、目に涙が浮かぶのを感じた。
葵さんとの、これからの人生への誓い。そして、心の中で、もう一つの誓いを、静かに立てていた。
――大和、必ず、お前を、この場所に連れ戻す。
その決意を、この日、僕は、静かに固めていた。
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披露宴では、母が、涙を堪えきれずに、何度もハンカチで目元を押さえていた。
「晴信、本当に、おめでとう」
その言葉に込められた、これまでの苦労と喜びを、僕は、深く噛み締めた。
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式の終わり、僕は、こっそりと、大和にメッセージを送った。
『今日、結婚式だったよ。本当は、大和にも見てほしかった』
既読は、つかなかった。それでも、僕は、送らずにはいられなかった。
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人生で最も幸せな一日のはずだった。
それでも、その幸せの中に、一つだけ、埋められない空白があった。
その空白を埋めるために、僕は、これから、何ができるのか。
まだ、その答えは、見えていなかった。それでも、僕の中には、確かな決意だけが、静かに灯っていた。




