第58話 報せ
結婚式の準備は、順調に進んでいた。
式場の下見、招待状の準備、葵さんとの打ち合わせ。忙しくも、充実した日々が続いていた。
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その電話がかかってきたのは、ある平日の昼下がりだった。
見慣れない番号からの着信に、僕は、一瞬、迷いながらも電話に出た。
「もしもし……武田です」
「あ、突然すみません。桜井大和の祖父で、下柳と申します」
その名前に、僕は、少し身構えた。
「ご無沙汰しております。大和くんに、何か……」
「それが……」
電話越しの祖父の声は、明らかに動揺していた。
「大和が、逮捕されたと、連絡がありまして」
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「逮捕……?」
僕は、自分の耳を疑った。
「詳しいことは、まだ、こちらにも、はっきりとは伝わってきていないんです。ただ、傷害事件を起こした、ということだけは」
その言葉に、僕は、頭が真っ白になった。
「傷害事件……。大和くんが、ですか」
「ええ……。本当に、何が起きたのか、私たちにも、よく分からなくて」
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電話を切った後、僕は、しばらく、その場に立ち尽くしていた。
傷害事件。その言葉が、頭の中で、何度も繰り返された。
あの、以前の事件――僕を助けようとして、大和が全てを失った、あの夜のことが、否応なく思い出された。
――まさか、また、同じようなことが。
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
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僕は、慌てて、大和のスマホに電話をかけた。
でも、何度かけても、繋がらなかった。
次に、LINEでメッセージを送った。
『大和、大丈夫? 連絡くれ』
既読は、つかなかった。
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その日の夜、葵さんに、事の次第を話した。
「友達が、ちょっとしたトラブルに巻き込まれたみたいなんだ」
詳しい事情は、僕自身、まだ何も分かっていなかった。逮捕されたという事実を、そのまま伝えることも、この時は、なんとなく躊躇われた。
「トラブル……? 大丈夫なの?」
「うん、まだ、はっきりしたことは分からないんだけど。明日、様子を見に行こうと思ってる」
葵さんは、少し心配そうな顔をした。
「そう……。何か、私にできることがあったら、言ってね」
その控えめな気遣いに、僕は、少し救われる思いがした。
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その夜、僕は、ほとんど眠れなかった。
何が起きたのか。なぜ、大和が、また傷害事件を起こすことになったのか。
様々な可能性が、頭の中を巡った。それでも、答えは、何一つ見えてこなかった。
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結婚式という、人生最高の幸せを目前に控えたこの時期に、僕は、大切な友人が、再び窮地に立たされているという現実を、突きつけられていた。
その意味を、僕はまだ、正確には理解できていなかった。
ただ、言いようのない不安だけが、胸の中に、重く広がっていた。




