第57話 決行
これも、後になって、大和自身の口から聞いた話だ。
あの日、大和は、健吾たちから得た情報を頼りに、組織の定例会合が開かれるという、都内のとあるレストランへ向かった。
*
「表向きは、経営者同士の懇親会って体だったよ」
大和は、そう説明した。
「個室を貸し切って、十人くらいが集まってた。その中に、トップと、主要な幹部がいるって情報だった」
大和は、招待されたわけでも、関係者を装ったわけでもなかった。ただ、真正面から、その個室に踏み込んだのだという。
*
「なんだ、お前は」
突然の乱入者に、会合の参加者たちは、一斉に色めき立ったという。
「お前らが、狙ってる会社があるだろ」
大和は、そう切り出した。
「『Suki』ってサービス、知ってるよな。あそこに、これ以上、手を出すな」
その言葉に、会場の空気が、一変したのだという。
*
「舐めた真似しやがって」
その場にいた男の一人が、そう言って立ち上がった瞬間、大和は、動いた。
詳しい経緯を、大和は、多くを語らなかった。ただ、「気づいたら、終わってた」という言葉だけを、僕に伝えた。
*
結果的に、その場にいた組織のトップと、主要な幹部数名が、大和によって、行動不能な状態にまで叩きのめされた。
周到な準備をしていた分、動きに無駄はなかったのだという。それでも、多勢に無勢の状況で、大和自身も、決して無傷ではなかった。
「殴られた記憶は、あんまりねえんだよな」
大和は、そう振り返った。
「無我夢中だったから」
*
騒ぎを聞きつけたレストランの従業員が、すぐに警察へ通報した。
公共の場での大立ち回りだったため、大和は、その場で、駆けつけた警察官によって、現行犯逮捕されることになった。
「まあ、当然の結果だよな」
大和は、そう自嘲気味に言った。
「証拠なんて、まともに揃えてたわけじゃねえし。表向きは、俺が一方的に、まっとうな会食の場を襲撃した、って形にしかならねえ」
*
「後悔は、しなかったの?」
僕が、そう尋ねると、大和は、少し間を置いてから答えた。
「連行されるパトカーの中で、考えたよ。これで、お前の会社は、少なくとも、あの組織からは守れたはずだって」
「なんで、そう言い切れたの?」
僕が、率直にそう尋ねると、大和は、少し考えてから、説明してくれた。
「ああいう連中は、表向き、まっとうな会社を装って、じわじわ近づいてくるのが手口なんだと。健吾に、そう聞いてた」
「うん」
「でも、今回みたいに、公の場で、しかも警察沙汰になるくらい派手に事が明るみに出たら、話は別だ。組織の存在自体に、注目が集まる。俺の事件を調べれば、当然、あの会合に誰がいたのかも、警察に把握される」
その説明に、僕は、頷いた。
「表の顔を使って、水面下で会社に食い込む。それが、あいつらのやり方だったんだろ。だったら、一番困るのは、目立つことだ。俺が暴れたことで、あの場にいた連中の身元も、多かれ少なかれ、警察に知られることになる。そんな状態で、お前の会社に手を出し続けるのは、リスクが高すぎる」
大和は、そう締めくくった。
「だから、あそこで派手にやることに、意味があると思ったんだよ。ただ痛めつけるだけじゃなくて、あいつらの企みそのものを、白日の下に晒すことが、目的だった」
その説明を聞いて、僕は、大和の行動が、単なる衝動的な暴力ではなく、**組織に「これ以上関われば割に合わない」と思わせるための、計算された一手**だったのだと、ようやく理解した。
*
こうして、大和は、僕の会社を、そして、僕の未来を、三度目の形で、守り抜いてくれていた。
その事実を、当の僕は、この時、まだ、何一つ知らないままでいた。
結婚式の準備に、幸せに包まれながら。




