第55話 婚約
葵さんとの交際が、一年を迎えようとしていた。
この一年で、僕らの関係は、着実に深まっていた。事業の忙しさの合間を縫いながらも、僕らは、互いを支え合う関係を築いてきたという実感があった。
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「そろそろ、ちゃんと、将来のことを考えないとな」
ある夜、一人でそう呟いていた。
葵さんと、この先もずっと一緒にいたい。その気持ちは、日を追うごとに、確かなものになっていた。
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プロポーズを決意してから、僕は、まず、大和に相談することにした。
この人生の大きな決断を、誰よりも先に、大和に伝えたかった。
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『大和、ちょっと相談したいことがあるんだけど』
そう、LINEを送った。
『なんだよ、改まって』
『実は、葵さんに、プロポーズしようと思ってて』
しばらく間を置いてから、返信が来た。
『マジか。ついに、って感じだな』
『緊張するよ、正直』
『まあ、お前ならうまくいくだろ』
その気楽な調子に、僕は、少し安心した。
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『指輪とか、もう決めてんの?』
『まだ、悩んでる。プロポーズの場所も、どうしようか考え中』
『まあ、お前らしく、こだわって選べばいいんじゃねえの』
大和からのアドバイスは、いつも通り、素っ気ないものだった。それでも、僕は、こういうやり取りが、心地よかった。
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『大和にも、結婚式には来てほしいんだけど』
僕は、思い切って、そう送った。
『おう、もちろん行くよ。お前の晴れ舞台、見逃すわけねえだろ』
その返事に、僕は、胸が温かくなった。
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この時の僕は、まだ、何も知らなかった。
この軽やかなやり取りの裏で、大和が、既に、命懸けの計画を進めていたことを。
彼が、その計画を実行に移した後、この結婚式に出席することが、叶わなくなってしまうことを。
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それから数日後、僕は、慎重に準備を進めた。
葵さんの好きな景色が見える、静かなレストランを予約し、指輪も、彼女の好みに合わせて、時間をかけて選んだ。
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プロポーズの当日、僕は、緊張で、何度も言葉を練習した。
「葵さん」
夕暮れの景色が広がるテラス席で、僕は、彼女に向き合った。
「これまで、たくさん支えてもらいました。これからも、ずっと、一緒にいてほしいです」
僕は、指輪の箱を差し出しながら、そう伝えた。
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葵さんは、驚いた表情を浮かべた後、目に涙を浮かべながら、頷いた。
「はい……。よろしくお願いします」
その言葉に、僕は、これまでの人生で、最も幸せな瞬間を、噛み締めていた。
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その夜、僕は、真っ先に、大和に報告のメッセージを送った。
『プロポーズ、成功したよ』
『おめでとう! 良かったな、本当に』
その言葉には、心からの祝福が滲んでいるように見えた。
僕は、この瞬間の幸せに包まれながら、大和もまた、いつか、こんな幸せを見つけられたらいいと、心から願っていた。
その願いが、皮肉にも、これから起こる出来事によって、しばらくの間、遠ざかってしまうことになるとは、この時の僕は、まだ、知る由もなかった。




