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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第3部 すれ違いと危機編

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第52話 溝の正体

 葵さんとの交際が始まってから、僕の日々は、これまでとは違う色合いを帯びるようになっていった。


 仕事の合間を縫って会う時間、他愛のないメッセージのやり取り。事業の忙しさは変わらなかったけれど、その忙しさの中に、確かな潤いが生まれていた。


     *


 その一方で、大和との連絡は、また少しずつ、間遠になっていった。


 悪気があったわけではない。ただ、葵さんとの時間、事業の対応、それらに追われる中で、大和に連絡する優先順位が、以前よりもさらに下がっていたのだと思う。


     *


「最近、彼女とはどう?」


 たまにかかってきた大和からの電話で、そう聞かれることがあった。


「うん、順調だよ。この前も、一緒に出かけて」


 僕は、嬉しそうに近況を話した。大和は、いつも通り、相槌を打ちながら聞いてくれていた。


「大和は、最近どう?」


 僕がそう聞き返すと、いつも同じような返事が返ってきた。


「まあ、相変わらずだよ」


 その「相変わらず」の中身を、僕は、深く尋ねることをしなかった。


     *


 これは、後になって、大和自身の口から聞いた話だ。


「お前が幸せそうに話すの、聞いてて嬉しかったんだよ、本当に」


 大和は、そう振り返った。


「でも、同時に、なんか、自分がどんどん置いていかれてる感じもしてた。お前には、支えてくれる人ができて。俺には、誰もいなかったから」


 その言葉に、僕は、当時の自分の無神経さを、改めて突きつけられた気がした。


     *


「連絡、しようと思えばできたんだよ」


 大和は、続けた。


「でも、いざしようとすると、お前の幸せな話を聞いて、素直に喜べない自分がいる気がしてさ。それが、なんか嫌だった」


 その告白に、僕は、何も言えなかった。


     *


 当時の僕は、そんな大和の葛藤に、気づく余裕がなかった。


 葵さんとの新しい生活、事業の更なる拡大。目の前の幸せに、僕は、夢中になっていた。


 大和からの連絡が減っていくことに、寂しさを感じなかったわけではない。それでも、「お互い、忙しいから仕方ない」という言い訳で、僕は、その寂しさを、簡単に片付けてしまっていた。


     *


 振り返れば、あの頃の溝の正体は、決して、誰か一方の悪意によるものではなかった。


 互いを思いやり、互いに気を遣い、それでいて、本音を言葉にすることを避け続けた結果、生まれた溝だった。


 その溝が、この先、どれほど深刻な形で、僕らの人生を分かつことになるのか。


 この時の僕は、まだ、想像もしていなかった。

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