第52話 溝の正体
葵さんとの交際が始まってから、僕の日々は、これまでとは違う色合いを帯びるようになっていった。
仕事の合間を縫って会う時間、他愛のないメッセージのやり取り。事業の忙しさは変わらなかったけれど、その忙しさの中に、確かな潤いが生まれていた。
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その一方で、大和との連絡は、また少しずつ、間遠になっていった。
悪気があったわけではない。ただ、葵さんとの時間、事業の対応、それらに追われる中で、大和に連絡する優先順位が、以前よりもさらに下がっていたのだと思う。
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「最近、彼女とはどう?」
たまにかかってきた大和からの電話で、そう聞かれることがあった。
「うん、順調だよ。この前も、一緒に出かけて」
僕は、嬉しそうに近況を話した。大和は、いつも通り、相槌を打ちながら聞いてくれていた。
「大和は、最近どう?」
僕がそう聞き返すと、いつも同じような返事が返ってきた。
「まあ、相変わらずだよ」
その「相変わらず」の中身を、僕は、深く尋ねることをしなかった。
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これは、後になって、大和自身の口から聞いた話だ。
「お前が幸せそうに話すの、聞いてて嬉しかったんだよ、本当に」
大和は、そう振り返った。
「でも、同時に、なんか、自分がどんどん置いていかれてる感じもしてた。お前には、支えてくれる人ができて。俺には、誰もいなかったから」
その言葉に、僕は、当時の自分の無神経さを、改めて突きつけられた気がした。
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「連絡、しようと思えばできたんだよ」
大和は、続けた。
「でも、いざしようとすると、お前の幸せな話を聞いて、素直に喜べない自分がいる気がしてさ。それが、なんか嫌だった」
その告白に、僕は、何も言えなかった。
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当時の僕は、そんな大和の葛藤に、気づく余裕がなかった。
葵さんとの新しい生活、事業の更なる拡大。目の前の幸せに、僕は、夢中になっていた。
大和からの連絡が減っていくことに、寂しさを感じなかったわけではない。それでも、「お互い、忙しいから仕方ない」という言い訳で、僕は、その寂しさを、簡単に片付けてしまっていた。
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振り返れば、あの頃の溝の正体は、決して、誰か一方の悪意によるものではなかった。
互いを思いやり、互いに気を遣い、それでいて、本音を言葉にすることを避け続けた結果、生まれた溝だった。
その溝が、この先、どれほど深刻な形で、僕らの人生を分かつことになるのか。
この時の僕は、まだ、想像もしていなかった。




