第51話 交際のはじまり
三度目の食事から、一週間ほどが経った頃。
僕は、意を決して、高橋さんを、改めて食事に誘った。
「今日は、ちゃんと伝えたいことがあって」
そう切り出すと、高橋さんは、少し緊張した面持ちで、僕を見つめた。
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「高橋さんのこと、その、一人の人として、大切に思うようになりました」
柄にもなく、緊張で声が震えていた。
「もし良ければ、僕と、お付き合いしていただけませんか」
言い終えると同時に、心臓が痛いくらいに鳴っていた。
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高橋さんは、しばらく黙っていた。その沈黙が、僕には、とても長く感じられた。
「……はい」
やがて、小さく、けれどはっきりとした声で、そう答えてくれた。
「私も、同じ気持ちでした」
その言葉に、僕は、これまでの人生で味わったことのないような、温かい喜びに包まれた。
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その夜、家に帰ってから、僕は、真っ先に大和に電話をかけた。
この報告だけは、誰よりも先に、大和にしたいと思った。
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「もしもし、大和? 夜遅くにごめん」
「ん、どうした。珍しいな、こんな時間に」
「あの、実は、報告したいことがあって」
僕は、少し照れくささを感じながら、事の経緯を話した。絵師として関わってくれている高橋さんのこと、少しずつ距離が縮まっていったこと、そして、今日、正式に交際を申し込んだこと。
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「へえ! ついに彼女できたのか、お前!」
電話越しに聞こえてきた大和の声は、僕がよく知っている、明るい声だった。
「柄にもなく、緊張したよ、告白」
「まあ、お前、そういうの慣れてなさそうだもんな」
からかうような口調に、僕は、思わず笑ってしまった。
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「良かったな、本当に」
大和は、心からそう言ってくれているように聞こえた。
「お前、ずっと仕事一筋だったし。ちゃんと、そういう相手見つけられて、良かったよ」
その言葉に、僕は、胸が熱くなった。
「ありがとう。今度、また詳しく話すよ」
「おう、楽しみにしてる」
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電話を切った後、僕は、しばらく、その場に座り込んでいた。
久しぶりに聞いた、以前と変わらない大和の明るい声。その声を聞けたことに、僕は、少なからず安堵していた。
――大和も、ちゃんと元気にやってるんだな。
そう思い込んでいた。その声の裏に、どれほどの孤独が隠されていたのかを、僕はまだ、知る由もなかった。
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こうして、僕は、高橋葵さんとの交際を、正式に始めることになった。
新しい幸せの始まりと同時に、僕らは、それぞれの人生の分岐点に、また一歩、近づいていっていた。




