第49話 静かな重なり
食事会から数日後、僕は、高橋さんに、新しいイラストの依頼メールを送った。
「先日はありがとうございました。早速で恐縮ですが、次のキャンペーン用に、新しいアイコンをお願いできますでしょうか」
これまでと変わらない、事務的な文面のつもりだった。
でも、返信を待つ間、僕は、いつもより少し、そわそわしている自分に気づいていた。
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「かしこまりました。喜んで担当させていただきます」
高橋さんからの返信は、いつも通り丁寧だった。それでも、文末に、こんな一文が添えられていた。
「先日は、直接お話しできて嬉しかったです。オンラインでのやり取りだけだと、なかなか伝わらないことも多いので」
その一文に、僕は、何度も読み返してしまった。
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それから、僕と高橋さんのやり取りは、少しずつ、変化していった。
仕事の依頼に関するメールの中に、少しずつ、雑談めいた一文が混ざるようになっていった。
「今日は、桜が綺麗でしたね」
「最近、new作品の参考に、美術館に行ってきました」
僕も、それに応えるように、業務連絡だけではない一言を、返信に添えるようになっていった。
「桜、僕も見ました。近所の公園、結構穴場なんです」
「美術館、いいですね。僕はもっぱらインドアなので、なかなか行けてないです」
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「なんか、最近、メールの返信、楽しみにしてる自分がいるんですよね」
あるとき、スタッフの一人に、そうこぼしたことがあった。
「え、それって……」
スタッフが、何か言いたげな顔をしたけれど、僕は、慌てて話をそらした。
「い、いや、単に、仕事のやり取りがスムーズだなって話で」
自分でも、その反応が不自然だと分かっていた。でも、まだ、自分の中にある感情に、はっきりとした名前をつける勇気が、持てずにいた。
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「今度、直接お会いして、次の案件の方向性、相談させてもらえませんか」
思い切って、僕は、そうメールを送った。オンラインでも十分に済む内容だったけれど、僕は、直接会って話したいという気持ちを、抑えられなかった。
「はい、ぜひ。楽しみにしています」
返ってきた返信に、僕は、柄にもなく、ガッツポーズをしていた。
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振り返れば、この頃の僕は、事業のこと以外に、久しぶりに、心を動かされる何かを見つけていた。
大和との距離が、静かに開いていく一方で、僕の中には、新しい繋がりが、静かに芽生え始めていた。
その皮肉な巡り合わせに、当時の僕は、まだ気づいていなかった。




