第48話 食事会の夜
「そろそろ、一度、スタッフの皆さんをねぎらう場を設けませんか」
経営が軌道に乗り始めた頃、そう提案してきたのは、経理を担当してくれているスタッフだった。
「みんな、リモートでしか顔合わせたことない人も多いですし」
その言葉に、僕も頷いた。オンラインでのやり取りばかりで、実際に顔を合わせたことのないスタッフも、少なくなかった。
「いいですね。少し奮発して、ちゃんとした店を予約しましょう」
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当日、会場となった個室には、二十人近いスタッフが集まっていた。
画面越しでしか知らなかった顔が、実際に目の前に並んでいる光景は、不思議な感慨があった。
「初めまして、代表の武田です」
僕は、一人一人に挨拶をして回った。
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「あの、初めまして。イラストを担当しています、高橋です」
その声に、僕は、少し驚いて振り返った。
メールでのやり取りだけを続けてきた、絵師の高橋葵さんだった。実際に顔を合わせるのは、これが初めてだった。
「あ、高橋さん……! いつも、素敵なイラストをありがとうございます」
思わず、声が上ずった。
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高橋さんの第一印象は、彼女が描くイラストの雰囲気そのものだった。
派手さはないけれど、どこか温かみのある、落ち着いた雰囲気。物腰も柔らかく、話し方には、丁寧な優しさが滲んでいた。
「Sukiのアイコン、いつも高橋さんの絵を見て、癒されてます」
スタッフの一人が、そう声をかけると、高橋さんは、控えめに微笑んだ。
「ありがとうございます……。まだまだ、勉強中の身なので」
その謙虚な態度にも、僕は、好感を覚えた。
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「メールでは、いつもお世話になってます」
僕がそう言うと、高橋さんは、少し緊張した様子で頷いた。
「こちらこそ、こんな素敵な機会をいただけて。まさか、自分の絵が、こんなにたくさんの人に見てもらえるようになるなんて、思ってもいませんでした」
その言葉には、飾らない、素直な喜びが滲んでいた。
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正直に言えば、僕は、女性と、挨拶以上の会話をした経験が、ほとんどなかった。
高校時代は、いじめのせいで、女子と関わる機会自体が少なかった。大学時代も、事業に没頭するあまり、恋愛どころではなかった。
だからこそ、高橋さんの穏やかな雰囲気に、僕は、自分でも予想していなかったほど、心が動くのを感じていた。
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「今日は、来てくれてありがとうございます」
食事会の終わり際、僕は、そう声をかけた。
「こちらこそ、ありがとうございました。楽しかったです」
高橋さんは、そう言って、柔らかく微笑んだ。
その笑顔を見送りながら、僕は、しばらく、その場に立ち尽くしていた。
これまで、事業のことばかり考えて過ごしてきた日々の中で、久しぶりに感じた、温かい感情だった。
この時の僕は、まだ知らなかった。
この出会いが、これから先の僕の人生に、大きな支えをもたらしてくれることになるとは。




