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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第3部 すれ違いと危機編

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第48話 食事会の夜

「そろそろ、一度、スタッフの皆さんをねぎらう場を設けませんか」


 経営が軌道に乗り始めた頃、そう提案してきたのは、経理を担当してくれているスタッフだった。


「みんな、リモートでしか顔合わせたことない人も多いですし」


 その言葉に、僕も頷いた。オンラインでのやり取りばかりで、実際に顔を合わせたことのないスタッフも、少なくなかった。


「いいですね。少し奮発して、ちゃんとした店を予約しましょう」


     *


 当日、会場となった個室には、二十人近いスタッフが集まっていた。


 画面越しでしか知らなかった顔が、実際に目の前に並んでいる光景は、不思議な感慨があった。


「初めまして、代表の武田です」


 僕は、一人一人に挨拶をして回った。


     *


「あの、初めまして。イラストを担当しています、高橋です」


 その声に、僕は、少し驚いて振り返った。


 メールでのやり取りだけを続けてきた、絵師の高橋葵さんだった。実際に顔を合わせるのは、これが初めてだった。


「あ、高橋さん……! いつも、素敵なイラストをありがとうございます」


 思わず、声が上ずった。


     *


 高橋さんの第一印象は、彼女が描くイラストの雰囲気そのものだった。


 派手さはないけれど、どこか温かみのある、落ち着いた雰囲気。物腰も柔らかく、話し方には、丁寧な優しさが滲んでいた。


「Sukiのアイコン、いつも高橋さんの絵を見て、癒されてます」


 スタッフの一人が、そう声をかけると、高橋さんは、控えめに微笑んだ。


「ありがとうございます……。まだまだ、勉強中の身なので」


 その謙虚な態度にも、僕は、好感を覚えた。


     *


「メールでは、いつもお世話になってます」


 僕がそう言うと、高橋さんは、少し緊張した様子で頷いた。


「こちらこそ、こんな素敵な機会をいただけて。まさか、自分の絵が、こんなにたくさんの人に見てもらえるようになるなんて、思ってもいませんでした」


 その言葉には、飾らない、素直な喜びが滲んでいた。


     *


 正直に言えば、僕は、女性と、挨拶以上の会話をした経験が、ほとんどなかった。


 高校時代は、いじめのせいで、女子と関わる機会自体が少なかった。大学時代も、事業に没頭するあまり、恋愛どころではなかった。


 だからこそ、高橋さんの穏やかな雰囲気に、僕は、自分でも予想していなかったほど、心が動くのを感じていた。


     *


「今日は、来てくれてありがとうございます」


 食事会の終わり際、僕は、そう声をかけた。


「こちらこそ、ありがとうございました。楽しかったです」


 高橋さんは、そう言って、柔らかく微笑んだ。


 その笑顔を見送りながら、僕は、しばらく、その場に立ち尽くしていた。


 これまで、事業のことばかり考えて過ごしてきた日々の中で、久しぶりに感じた、温かい感情だった。


 この時の僕は、まだ知らなかった。


 この出会いが、これから先の僕の人生に、大きな支えをもたらしてくれることになるとは。

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