↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第3部 すれ違いと危機編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/93

第47話 立て直し

 あの事件から、僕は、大きく変わらざるを得なかった。


 大和が全てを失う結果になったあの夜以来、僕は、自分がどれほど無防備だったかを、嫌というほど思い知らされていた。


     *


「今度こそ、ちゃんと動きます」


 経営コンサルタントとのオンライン会議で、僕は、そう宣言した。


「以前、専門家に相談した方がいいと言われていたのに、後回しにしてしまっていました。すみません」


「気にしなくて大丈夫ですよ。ただ、今回のことを機に、しっかり体制を整えていきましょう」


 コンサルタントの言葉に、僕は、強く頷いた。


     *


 まず着手したのは、法人化だった。


 これまで、個人事業に近い形で運営してきた「Suki」を、正式に株式会社として法人化することにした。


「法人化することで、社会的な信用度も上がりますし、契約関係もしっかりしたものになります」


 顧問税理士のアドバイスを受けながら、登記の手続きを進めていった。慣れない書類仕事に苦労しながらも、一つ一つ、着実に進めていった。


     *


 次に取り組んだのは、事務所の契約だった。


 これまで、スタッフ全員がリモートで、それぞれの自宅から作業をしていた。それは、経費を抑える上では合理的だったけれど、防犯という観点では、明らかに脆弱だった。


 紹介してもらった危機管理の専門家と相談しながら、セキュリティ設備の整った、小規模なオフィスビルの一室を契約した。


「入退室の管理、防犯カメラの設置、あとは、緊急時の対応マニュアルも、一緒に整備していきましょう」


 専門家の助言を受けながら、一つ一つ、防犯体制を固めていった。あの夜、後回しにし続けていたことを、今度こそ、きちんと形にしていった。


     *


 個人としての生活面でも、変化があった。


 以前住んでいたアパートは、セキュリティの面で不安が残ると指摘され、オートロックと防犯カメラの整った、新しいマンションへと引っ越すことにした。


「前のアパート、思い出も多かったんですけどね」


 引っ越しの際、スタッフにそうこぼすと、笑いながら返された。


「思い出は、これから新しい場所でも作れますよ」


 その言葉に、僕は、少し前向きな気持ちになれた。


     *


 法人化、事務所契約、セキュリティ体制の整備、そして住まいの変更。


 これらは全て、あの夜の事件がなければ、まだまだ後回しにされていたことばかりだった。


 皮肉なことに、大和が全てを犠牲にしたあの夜が、結果として、僕の事業を、より強固な基盤へと押し上げるきっかけになっていた。


 その事実に、僕は、何度も複雑な思いを抱いた。


 大和が失ったものの大きさに比べて、自分が得たものの大きさが、あまりにも不釣り合いに感じられたからだ。


     *


「ちゃんと、前を向いて頑張ってくださいね」


 コンサルタントに、そう声をかけられたことがあった。


「今回のことは、あなたのせいだけじゃない。大和さんの選択も含めて、色んな要因が絡んだ結果です。自分を責めすぎないように」


 その言葉に、僕は、小さく頷いた。


 頭では、分かっていた。それでも、心のどこかにある負い目は、簡単には消えてくれなかった。


     *


 新しい事務所、新しい住まい、そして、より強固になった経営基盤。


 事業は、着実に安定へと向かっていた。


 その一方で、大和は、都会の見知らぬジムで、孤独と鬱屈を抱えながら、日々を過ごしている。


 その対比を、この時の僕は、まだ、正しく理解できていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。