第47話 立て直し
あの事件から、僕は、大きく変わらざるを得なかった。
大和が全てを失う結果になったあの夜以来、僕は、自分がどれほど無防備だったかを、嫌というほど思い知らされていた。
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「今度こそ、ちゃんと動きます」
経営コンサルタントとのオンライン会議で、僕は、そう宣言した。
「以前、専門家に相談した方がいいと言われていたのに、後回しにしてしまっていました。すみません」
「気にしなくて大丈夫ですよ。ただ、今回のことを機に、しっかり体制を整えていきましょう」
コンサルタントの言葉に、僕は、強く頷いた。
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まず着手したのは、法人化だった。
これまで、個人事業に近い形で運営してきた「Suki」を、正式に株式会社として法人化することにした。
「法人化することで、社会的な信用度も上がりますし、契約関係もしっかりしたものになります」
顧問税理士のアドバイスを受けながら、登記の手続きを進めていった。慣れない書類仕事に苦労しながらも、一つ一つ、着実に進めていった。
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次に取り組んだのは、事務所の契約だった。
これまで、スタッフ全員がリモートで、それぞれの自宅から作業をしていた。それは、経費を抑える上では合理的だったけれど、防犯という観点では、明らかに脆弱だった。
紹介してもらった危機管理の専門家と相談しながら、セキュリティ設備の整った、小規模なオフィスビルの一室を契約した。
「入退室の管理、防犯カメラの設置、あとは、緊急時の対応マニュアルも、一緒に整備していきましょう」
専門家の助言を受けながら、一つ一つ、防犯体制を固めていった。あの夜、後回しにし続けていたことを、今度こそ、きちんと形にしていった。
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個人としての生活面でも、変化があった。
以前住んでいたアパートは、セキュリティの面で不安が残ると指摘され、オートロックと防犯カメラの整った、新しいマンションへと引っ越すことにした。
「前のアパート、思い出も多かったんですけどね」
引っ越しの際、スタッフにそうこぼすと、笑いながら返された。
「思い出は、これから新しい場所でも作れますよ」
その言葉に、僕は、少し前向きな気持ちになれた。
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法人化、事務所契約、セキュリティ体制の整備、そして住まいの変更。
これらは全て、あの夜の事件がなければ、まだまだ後回しにされていたことばかりだった。
皮肉なことに、大和が全てを犠牲にしたあの夜が、結果として、僕の事業を、より強固な基盤へと押し上げるきっかけになっていた。
その事実に、僕は、何度も複雑な思いを抱いた。
大和が失ったものの大きさに比べて、自分が得たものの大きさが、あまりにも不釣り合いに感じられたからだ。
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「ちゃんと、前を向いて頑張ってくださいね」
コンサルタントに、そう声をかけられたことがあった。
「今回のことは、あなたのせいだけじゃない。大和さんの選択も含めて、色んな要因が絡んだ結果です。自分を責めすぎないように」
その言葉に、僕は、小さく頷いた。
頭では、分かっていた。それでも、心のどこかにある負い目は、簡単には消えてくれなかった。
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新しい事務所、新しい住まい、そして、より強固になった経営基盤。
事業は、着実に安定へと向かっていた。
その一方で、大和は、都会の見知らぬジムで、孤独と鬱屈を抱えながら、日々を過ごしている。
その対比を、この時の僕は、まだ、正しく理解できていなかった。




