第46話 遠い声
この頃の僕と大和のやり取りを、今、スマホの履歴で見返すと、その変化がよく分かる。
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以前は、他愛のないメッセージが、頻繁に行き交っていた。
『今日のジムのメシまずすぎ』
『大学の課題終わらん』
『今度の試合、絶対見に来いよ』
そんな、内容のない、けれど確かな繋がりを感じさせるやり取りが、以前は当たり前のようにあった。
でも、移籍してからのやり取りは、次第に、その質を変えていった。
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『元気にしてる?』
『まあ、それなりに』
『新しいジム、慣れた?』
『ぼちぼち』
『今度、そっちに顔出そうか』
『別に、そこまでしなくていいぞ。忙しいだろ』
やり取りの回数自体は、極端に減ったわけではなかった。でも、その中身は、当たり障りのない、表面をなぞるだけのものに変わっていった。
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これは、後になって、大和自身の口から聞いた話だ。
「お前が忙しいのは、分かってたからさ」
大和は、そう説明した。
「本当のこと話しても、どうせ大した力にはなれねえだろうし。だったら、心配かけるようなことは、言わない方がいいと思ってた」
その優しさが、皮肉にも、二人の距離を、さらに広げていったのだという。
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「たまに、お前から連絡来ると、素直に嬉しかったんだけどな」
大和は、少し照れくさそうに、そう付け加えた。
「でも、返信するときには、いつも、あんまり深刻な話はしないようにしてた。お前の知ってる『大和』のままでいたかったんだと思う」
その言葉に、僕は、胸が痛くなった。
大和は、僕に弱さを見せることを、意図的に避けていたのだ。それは、彼なりの優しさであり、同時に、彼自身を孤立させていく、静かな選択でもあった。
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僕自身も、この頃、大和からの短い返信に、深く違和感を覚えることは、ほとんどなかった。
「お互い、忙しいから」
その一言で、僕は、自分を納得させていた。
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「電話しようかなって、何度も思ったんだよ」
大和は、そう振り返った。
「でも、いざかけようとすると、なんて切り出せばいいか分かんなくてさ。結局、かけずに終わることが、多かった」
その、かけられなかった電話の数だけ、二人の間には、言葉にならない距離が、静かに積み重なっていった。
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振り返れば、あの頃の僕らは、互いを気遣うあまり、互いに本音を言えずにいた。
それは、あの日、母と僕が、進学のことで抱えていたすれ違いと、どこか似ていた。
優しさが、時に、人と人との距離を、かえって広げてしまうことがある。
その皮肉を、当時の僕は、まだ、理解できていなかった。
こうして、移籍先での日々は、静かに、けれど確実に、二人の心の距離を広げながら、過ぎていった。




