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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第3部 すれ違いと危機編

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第45話 埋まらない渇き

 移籍から半年ほどが経った頃、大和のライセンス停止処分が、ようやく解除された。


 これも、後になって聞いた話だ。


     *


「やっと、リングに戻れるってなったときは、正直、ほっとしたよ」


 大和は、そう振り返った。


「でも、そこからが、また長かった」


 停止処分が解けたからといって、すぐに試合が組めるわけではなかった。大手ジムという環境は、以前とは比べ物にならないほど恵まれていたはずだった。それでも、大和を待っていたのは、また別種の壁だった。


     *


「傷害事件のこと、業界じゃ結構知れ渡っててな」


 大和は、苦い顔で説明した。


「実力はある。それは、みんな認めてくれる。でも、プロモーターからすれば、いつまたキレて問題起こすか分からない選手を、大きな舞台に上げるのは、リスクでしかねえんだと」


 その言葉に、僕は、以前ジムの会長から聞いた「実力があるだけじゃ、試合は組めない」という話を思い出していた。理由は違えど、大和はまた、実力とは別のところで、道を閉ざされようとしていた。


     *


 結局、組んでもらえるのは、格下相手の試合ばかりだった。


「圧勝はするんだよ、いつも通り。でも、それだけだ」


 大和は、そう自嘲気味に言った。


「ランキング上げるには、もっと格上とやらなきゃいけねえのに、そういう相手ほど、俺とは試合したがらねえ。前のジムの時と、結局同じだよ」


 環境を変えれば、道が開けると思っていた。でも、現実は、そう簡単ではなかったのだという。


     *


「なんで、こんなことになったんだろうな」


 大和は、当時、よくそう考えていたのだという。


「実力は落ちてねえ。むしろ、以前より強くなってる自信もあった。それなのに、一度の過ちで、こんなに長く、足を引っ張られ続けるのかって」


 その理不尽さへの怒りが、次第に、彼の中で澱のように溜まっていった。


     *


「そんな時期にな、健吾たちと過ごす時間が、余計に増えていったんだよ」


 大和は、そう続けた。


「あいつらといるときだけは、そういう理不尽さから、少しだけ、目を逸らせる気がしてた」


 その告白を聞いたとき、僕は、当時の大和が置かれていた状況の深刻さを、改めて実感した。


 実力があっても、報われない。頑張っても、認められない。


 その渇きが、彼を、少しずつ、危うい方向へと導いていっていた。


     *


 この頃、僕は、まだ何も知らなかった。


 大和が、そんな渇きを抱えながら、日々を過ごしていたことも。


 そして、その渇きが、やがて、僕自身の人生と、大きく交差することになるとも。


 僕らはただ、それぞれの場所で、それぞれの戦いを続けていた。

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