第45話 埋まらない渇き
移籍から半年ほどが経った頃、大和のライセンス停止処分が、ようやく解除された。
これも、後になって聞いた話だ。
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「やっと、リングに戻れるってなったときは、正直、ほっとしたよ」
大和は、そう振り返った。
「でも、そこからが、また長かった」
停止処分が解けたからといって、すぐに試合が組めるわけではなかった。大手ジムという環境は、以前とは比べ物にならないほど恵まれていたはずだった。それでも、大和を待っていたのは、また別種の壁だった。
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「傷害事件のこと、業界じゃ結構知れ渡っててな」
大和は、苦い顔で説明した。
「実力はある。それは、みんな認めてくれる。でも、プロモーターからすれば、いつまたキレて問題起こすか分からない選手を、大きな舞台に上げるのは、リスクでしかねえんだと」
その言葉に、僕は、以前ジムの会長から聞いた「実力があるだけじゃ、試合は組めない」という話を思い出していた。理由は違えど、大和はまた、実力とは別のところで、道を閉ざされようとしていた。
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結局、組んでもらえるのは、格下相手の試合ばかりだった。
「圧勝はするんだよ、いつも通り。でも、それだけだ」
大和は、そう自嘲気味に言った。
「ランキング上げるには、もっと格上とやらなきゃいけねえのに、そういう相手ほど、俺とは試合したがらねえ。前のジムの時と、結局同じだよ」
環境を変えれば、道が開けると思っていた。でも、現実は、そう簡単ではなかったのだという。
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「なんで、こんなことになったんだろうな」
大和は、当時、よくそう考えていたのだという。
「実力は落ちてねえ。むしろ、以前より強くなってる自信もあった。それなのに、一度の過ちで、こんなに長く、足を引っ張られ続けるのかって」
その理不尽さへの怒りが、次第に、彼の中で澱のように溜まっていった。
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「そんな時期にな、健吾たちと過ごす時間が、余計に増えていったんだよ」
大和は、そう続けた。
「あいつらといるときだけは、そういう理不尽さから、少しだけ、目を逸らせる気がしてた」
その告白を聞いたとき、僕は、当時の大和が置かれていた状況の深刻さを、改めて実感した。
実力があっても、報われない。頑張っても、認められない。
その渇きが、彼を、少しずつ、危うい方向へと導いていっていた。
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この頃、僕は、まだ何も知らなかった。
大和が、そんな渇きを抱えながら、日々を過ごしていたことも。
そして、その渇きが、やがて、僕自身の人生と、大きく交差することになるとも。
僕らはただ、それぞれの場所で、それぞれの戦いを続けていた。




