第43話 見知らぬ土地で
大和が移籍した都会のジムは、これまでとは、何もかもが違っていた。
これは、後になって、大和自身の口から聞いた話だ。あの頃、彼が過ごしていた日々について、ここに記しておこうと思う。
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設備は、以前のジムとは比べ物にならないほど充実していた。トレーナーの数も多く、マッチメイクの面でも、これまでとは違う可能性が開けているはずだった。
それでも、大和の心は、なかなか晴れなかったのだという。
「知り合いなんて、誰もいねえしな」
後年、大和はそう振り返った。
「会長も、ジムの仲間も、みんな他人だった。事件のこと知ってる奴も多かったし、腫れ物に触るような扱いされることもあった」
実力を評価されて迎えられたはずなのに、そこには、以前のジムにあったような、家族に近い温かさはなかったのだという。
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僕自身も、この頃、時々大和に電話をかけていた。
「新しいジム、どう?」
「まあ、悪くはないよ。設備は良い」
その返事は、いつも簡潔だった。
「練習、ちゃんとできてる?」
「ああ、やってるよ」
当たり障りのない会話が、その都度、短く交わされるだけだった。以前のような、他愛のない軽口の応酬は、いつの間にか、影を潜めていた。
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「正直、あの頃は、しんどかったよ」
後年、大和は、そう打ち明けた。
「新しい土地で、一からやり直さなきゃいけねえのに、心のどっかで、まだ、あのジムに未練残しててさ。オッサンが通ってた場所を、自分のせいで離れることになったっていう、後ろめたさもあったし」
その言葉に、僕は、当時気づいてやれなかった、大和の孤独の深さを、改めて実感した。
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「なあ、そっちで、友達とかできた?」
ある時、電話でそう尋ねたことがあった。
「友達、ねぇ」
大和は、少し間を置いてから、答えた。
「まあ、ジムの何人かとは、それなりに話すようになったよ」
その答えに、僕は少し安堵した。でも、後になって知ることになる。その「それなりに話すようになった」相手というのが、決して、大和にとって良い影響を与える人間ばかりではなかったということを。
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大和の生活は、表面上は、以前と変わらず続いているように見えた。ライセンスはまだ無期限の停止処分のまま、試合に出られる見込みは立っていなかった。それでも、大和は、黙々と練習だけは続けていた。
試合という目標すら見えない中で、それでも拳を振るい続ける。傍から見れば、その姿は、真面目そのものだったかもしれない。
でも、その内側では、埋まらない孤独と、消えない後ろめたさが、静かに積み重なっていっていた。
それに、僕が気づくのは、まだ、ずっと先のことだった。




