第41話 応報
警察署の一室で、僕は、何度も同じ説明を繰り返していた。
「本当です。あの五人は、僕を車に連れ去ろうとしていたんです。大和は、僕を助けるために……」
担当の刑事は、淡々とした表情で、僕の証言をメモしていた。
「あなたを助けようとした、という点については、状況からも矛盾はありません。ただ――」
刑事は、一度言葉を切ってから、続けた。
「相手が抵抗できない状態になった後も、暴行を続けた点については、正当防衛の範囲を、明らかに超えています」
その言葉に、僕は、何も言い返せなかった。
*
「彼は、僕のために……」
「分かっています。ただ、結果として、五人全員が重傷を負っています。中には、意識不明の重体だった方もいる」
その事実を突きつけられ、僕は、言葉を失った。
あの夜、目の前で繰り広げられた光景を思い出す。止めようとしても止められなかった、大和の拳。
「彼を、庇いたい気持ちは分かります。でも、事実は事実として、扱わなければなりません」
刑事の言葉は、冷静で、正しかった。それが、余計に僕を苦しめた。
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数日後、正式に、大和には傷害罪が適用されることが決まった。
被害者側の五人が、身代金目当てに晴信を狙っていた、素性の怪しい人間たちだったという裏の事情も明らかになったが、それは、量刑には直接影響しなかった。
「情状酌量の余地は十分にあります。前科もなく、そもそもは友人を助けるための行動だった、という経緯もある。おそらく、執行猶予がつく可能性が高いでしょう。ただし――」
弁護士は、一度言葉を切ってから、続けた。
「あくまで、今回の話です。ボクシング協会側の処分は、また別の話になります。そちらは、司法とは無関係に、独自の基準で決定されるでしょうから」
その言葉通り、その後、大和には執行猶予付きの有罪判決が言い渡されることになった。実刑は免れたものの、前科がついたという事実、そして執行猶予期間中であるという事実は、重くのしかかることになった。
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それと同時に、ボクシング側の処分も、次々と決まっていった。
日本ボクシングコミッションからは、無期限のライセンス停止処分。そして、東洋太平洋王座の剥奪。
これまで積み上げてきた大和の全てが、たった一晩の出来事によって、崩れ去っていくのを、僕はただ、見ていることしかできなかった。
「僕のせいだ……」
弁護士との打ち合わせの帰り道、僕は、一人、そう呟いていた。
僕を助けようとしたことが、彼から、全てを奪う結果になってしまった。
その事実は、どれだけ考えても、僕の心を、深く抉り続けた。
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留置場での面会は、限られた時間しか許されていなかった。
アクリル板越しに見る大和は、憔悴しきった様子だった。
「大和……」
「悪いな、こんなことになって」
その言葉に、僕は、首を横に振った。
「謝るのは、僕の方だよ。僕のために……」
「違う」
大和は、静かに、けれどきっぱりと、僕の言葉を遮った。
「お前のせいじゃねえ。俺が、自分を止められなかっただけだ」
その言葉に、僕は、涙が込み上げるのを堪えられなかった。
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「ライセンスと、王座のこと、聞いた」
僕がそう切り出すと、大和は、小さく頷いた。
「まあ、当然の報いだろうな」
その声には、諦めにも似た響きがあった。
「これから、どうなるか、まだ分かんねえけど」
大和は、そう言って、少しだけ笑った。無理をしているのが、痛いほど伝わってくる笑顔だった。
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面会時間の終わりを告げるアナウンスが響いた。
「また、来るから」
僕がそう言うと、大和は、小さく頷いた。
「あんまり、無理すんなよ。お前には、お前の仕事があるんだから」
その言葉を最後に、大和は、係員に連れられて、部屋を後にした。
その背中を見送りながら、僕は、拳を強く握りしめていた。
――何か、僕にできることはないのか。
その答えを、僕はまだ、見つけられずにいた。




