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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第2部 それぞれの飛躍と挫折編

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第39話 現れた影

 街灯の下に、大和が立っていた。


 偶然だったのか、それとも何かを察知して来てくれたのか。その理由を考える余裕は、僕にはなかった。


「大和……!」


 声にならない声で、僕はその名前を呼んだ。


     *


「あ? 誰だお前」


 男の一人が、大和を睨みつけながら、凄んだ。数の上では、圧倒的に有利だと分かっているのだろう、その声には余裕があった。


 大和は、何も答えなかった。ただ、僕を掴んでいる男たちを、静かに見据えていた。


 その目に、僕は見覚えがあった。


 高校一年生のあの日、東郷たちに向けられていた、あの燃えるような目。


     *


「その手、離せ」


 大和の声は、低く、感情を押し殺したようだった。


「はぁ? お前には関係ねえだろ、これは」


 男の一人が、そう言い放った瞬間だった。


 大和の姿が、一瞬でその男との距離を詰めていた。


 次の瞬間、乾いた音と共に、男の体が地面に崩れ落ちた。あまりに一瞬の出来事で、僕は、何が起きたのか、正確には把握できなかった。


     *


「な……!」


 残りの男たちが、驚愕の表情を浮かべる。一人が、慌てて僕の腕を放し、大和に向かって身構えた。


 でも、その動きは、大和の速さに、まるで追いついていなかった。


 一人、また一人と、大和の拳が、男たちを打ち倒していく。プロボクサーとしての実力が、素人相手には、あまりにも一方的な差となって表れていた。


 僕は、その場に立ち尽くしたまま、目の前で繰り広げられる光景を、ただ見ていることしかできなかった。


     *


 数十秒後には、五人の男たちは、全員が地面に倒れ込んでいた。


 呆然とする僕の前で、大和は、荒い息を整えながら、倒れた男たちを見下ろしていた。


「大丈夫か、お前」


 その声で、ようやく僕は、我に返った。


「う、うん……大丈夫。助かった」


 僕の声は、まだ震えていた。


「なんで、ここに……」


「たまたまだよ。近くを通りかかっただけだ」


 その素っ気ない返事に、僕は、この状況にもかかわらず、少しだけ安堵を覚えた。いつもの大和がそこにいる、その事実に。


     *


 でも、その安堵は、長くは続かなかった。


 地面に倒れた男たちを見下ろす大和の目に、僕は、ある異変に気づいた。


 安堵とは真逆の、燃えるような何かが、まだそこに宿っていた。


 男たちは、すでに戦意を失い、地面に伸びていた。それなのに、大和の拳は、まだ、僅かに震えていた。


「大和……もう、大丈夫だから」


 僕は、そう声をかけた。けれど、その言葉が、大和に届いているのかどうか、この時の僕には、確信が持てなかった。


 彼の目の中に灯っていたのは、僕を助けたという安堵ではなく、もっと別の、抑えきれない何かのように見えた。

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