第28話 卒業研究というきっかけ
少し時間を遡る。
大和にあのSNSの構想を話す、もう少し前――卒業研究のテーマを決めかねていた頃の話だ。
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「武田、テーマ決まったか?」
ゼミの教授に、そう聞かれたのは、大学四年の春だった。
「まだ、あまり……」
情報学部の卒業研究は、テーマの自由度が高い分、決めるまでが一苦労だった。技術的に面白そうなものはいくつも思いついたけれど、「これだ」と確信できるものが、なかなか見つからなかった。
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ある夜、いつものように趣味のアニメを見ながら、SNSでその感想を呟こうとして、僕はふと、手を止めた。
好きなアニメの話をしても、周りの反応は薄い。フォロワーの大半は、リアルの知り合いで、アニメやゲームに興味のある人間は、ほとんどいなかった。
思えば、大学に入ってから、こういう趣味の話を心から共有できる相手が、ほとんどいなかった。サークルにも入らず、友人と呼べる人間も、片手で数えるほどしかいない。
その数少ない友人である大和は、こういう話には、まったく興味を示さない。それでも構わないと思っていたけれど、心のどこかで、同じ趣味を語り合える相手を、密かに求めていたのかもしれない。
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――同じような人間、他にもいるはずなんだよな。
そう思ったのが、きっかけだった。
既存のSNSは、リア充向けというか、友人・知人との繋がりを前提とした作りのものが多い。だからこそ、僕のような、リアルでの人間関係が狭く、趣味も少数派な人間にとっては、居心地の悪さがあった。
だったら、そういう人間同士が、気兼ねなく繋がれる場所を作れないだろうか。
その夜、僕は思いつくままに、構想をノートに書き殴った。
プロフィールよりも、好きなものの情報を前面に出す設計。フォロワー数を競わせない、静かな交流を重視したUI。リアルの人間関係を持ち込まなくていい、匿名性の高い環境。
書いているうちに、興奮で手が震えた。こんな感覚は、久しぶりだった。
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翌日、僕はこの構想を、卒業研究のテーマとして教授に相談した。
「面白いじゃないか。ユーザーの心理設計まで踏み込んでるのは、なかなか他の学生にはない視点だ」
教授の反応は、思っていたよりもずっと好意的だった。その一言に、僕は背中を押された気がした。
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それからの日々は、慌ただしかった。
プログラミングの授業で学んだ知識だけでは足りず、独学で新しい技術を学びながら、少しずつサービスの形を作っていった。研究室に泊まり込む日も増えた。
誰に頼まれたわけでもない。それでも、これまでの人生で、これほど何かに没頭したことはなかった。
――僕も、何か、自分にしか作れないものを、この手で形にしてみたい。
あの頃、大和の背中を見ながら感じていた漠然とした思いが、ようやく具体的な形を持ち始めていた。
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この開発に打ち込む日々の中で、僕は、大和と過ごす時間を、以前より優先できなくなっていった。
悪気があったわけではない。ただ、目の前の作業に、夢中になりすぎていた。
その優先順位の変化が、大和の中に、静かに影を落としていたことに、僕はまだ、気づいていなかった。




