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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第2部 それぞれの飛躍と挫折編

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第28話 卒業研究というきっかけ

 少し時間を遡る。


 大和にあのSNSの構想を話す、もう少し前――卒業研究のテーマを決めかねていた頃の話だ。


     *


「武田、テーマ決まったか?」


 ゼミの教授に、そう聞かれたのは、大学四年の春だった。


「まだ、あまり……」


 情報学部の卒業研究は、テーマの自由度が高い分、決めるまでが一苦労だった。技術的に面白そうなものはいくつも思いついたけれど、「これだ」と確信できるものが、なかなか見つからなかった。


     *


 ある夜、いつものように趣味のアニメを見ながら、SNSでその感想を呟こうとして、僕はふと、手を止めた。


 好きなアニメの話をしても、周りの反応は薄い。フォロワーの大半は、リアルの知り合いで、アニメやゲームに興味のある人間は、ほとんどいなかった。


 思えば、大学に入ってから、こういう趣味の話を心から共有できる相手が、ほとんどいなかった。サークルにも入らず、友人と呼べる人間も、片手で数えるほどしかいない。


 その数少ない友人である大和は、こういう話には、まったく興味を示さない。それでも構わないと思っていたけれど、心のどこかで、同じ趣味を語り合える相手を、密かに求めていたのかもしれない。


     *


 ――同じような人間、他にもいるはずなんだよな。


 そう思ったのが、きっかけだった。


 既存のSNSは、リア充向けというか、友人・知人との繋がりを前提とした作りのものが多い。だからこそ、僕のような、リアルでの人間関係が狭く、趣味も少数派な人間にとっては、居心地の悪さがあった。


 だったら、そういう人間同士が、気兼ねなく繋がれる場所を作れないだろうか。


 その夜、僕は思いつくままに、構想をノートに書き殴った。


 プロフィールよりも、好きなものの情報を前面に出す設計。フォロワー数を競わせない、静かな交流を重視したUI。リアルの人間関係を持ち込まなくていい、匿名性の高い環境。


 書いているうちに、興奮で手が震えた。こんな感覚は、久しぶりだった。


     *


 翌日、僕はこの構想を、卒業研究のテーマとして教授に相談した。


「面白いじゃないか。ユーザーの心理設計まで踏み込んでるのは、なかなか他の学生にはない視点だ」


 教授の反応は、思っていたよりもずっと好意的だった。その一言に、僕は背中を押された気がした。


     *


 それからの日々は、慌ただしかった。


 プログラミングの授業で学んだ知識だけでは足りず、独学で新しい技術を学びながら、少しずつサービスの形を作っていった。研究室に泊まり込む日も増えた。


 誰に頼まれたわけでもない。それでも、これまでの人生で、これほど何かに没頭したことはなかった。


 ――僕も、何か、自分にしか作れないものを、この手で形にしてみたい。


 あの頃、大和の背中を見ながら感じていた漠然とした思いが、ようやく具体的な形を持ち始めていた。


     *


 この開発に打ち込む日々の中で、僕は、大和と過ごす時間を、以前より優先できなくなっていった。


 悪気があったわけではない。ただ、目の前の作業に、夢中になりすぎていた。


 その優先順位の変化が、大和の中に、静かに影を落としていたことに、僕はまだ、気づいていなかった。

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