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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第2部 それぞれの飛躍と挫折編

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第26話 燻る日々

 東洋太平洋王座を獲得してから、大和の防衛戦は、三度を数えていた。


 相手は、いずれも格下と目される選手たち。試合は、大和の圧勝という結果に終わったが、内容そのものに、以前ほどの高揚感はなくなっていた。


     *


「今日の試合も、危なげなかったね」


 四度目の防衛戦の後、控室でそう声をかけると、大和は、疲れたような笑みを浮かべた。


「まあな。でも、正直、あんまり手応えねえよ」


「そう、なんだ」


「格下相手に勝ち続けても、ランキングはちっとも上がらねえ。何のために試合してるのか、たまに分かんなくなる」


 珍しく、弱音めいた言葉だった。大和は、すぐに取り繕うように付け加えた。


「まあ、贅沢な悩みなんだろうけどな」


 僕は、何と返せばいいのか分からず、ただ黙って頷いた。


     *


 ジムに通う日々の中で、大和は、以前よりも口数が減っていった。練習には真面目に取り組んでいたけれど、その姿には、以前のような、目標に向かって突き進む勢いよりも、義務感のようなものが色濃くなっていた。


「大和、最近元気ないよな」


 ある時、ジムの後輩がそう漏らしているのを、偶然耳にしたことがあった。


「まあ、あんだけ結果出してるのに、報われてねえもんな。気持ちも分かるわ」


 その言葉を聞いて、僕は改めて、大和が置かれている状況の理不尽さを実感した。


     *


「なあ、正直に聞くけど」


 ある日の帰り道、僕は思い切って尋ねてみた。


「移籍、本当にしなくていいの?」


 大和は、しばらく黙ってから、ぽつりと答えた。


「……分かんねえよ、正直」


 その返事は、以前のような頑なさとは、少し違っていた。


「オッサンの夢だから、って気持ちは、今でも変わんねえ。でも、このまま燻り続けるのも、それはそれで、オッサンの顔に泥塗ってるみたいな気がして」


 その言葉に、大和の中にある葛藤の深さが滲んでいた。


 僕は、何も言えなかった。正しい答えなんて、僕には分からなかったからだ。


     *


「まあ、いいよ、こんな話。愚痴っぽくて、柄でもねえ」


 大和は、そう言って、話を切り上げようとした。


「愚痴くらい、言っていいと思うけどな」


「……お前には、あんま見せたくねえんだよ、こういうとこ」


 その一言に、僕は少し驚いた。


「なんで?」


「知らねえよ。ただ、なんとなくだ」


 それ以上、大和は多くを語らなかった。ただ、その表情には、僕にも簡単には踏み込めない、複雑な感情が浮かんでいるように見えた。


     *


 その頃の僕は、大学の卒業研究のテーマを、まだ漠然としか考えられていなかった。


 自分にしか作れないものを、形にしたい。そんな思いだけが先行して、具体的な形が、なかなか見えてこなかった。


 大和の燻りを間近で見ながら、僕は、ふとこんなことを思っていた。


 ――結果を出しても、報われないことがある。


 その理不尽さを、大和はすでに味わい始めていた。それが、いつか、もっと大きな形で、彼を追い詰めることになるとは、この時の僕は、まだ想像もしていなかった。

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