↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第2部 それぞれの飛躍と挫折編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/93

第24話 東洋太平洋の壁

 日本タイトルを獲得してから、大和の快進撃は続いた。


 防衛戦を一つこなし、そのわずか数ヶ月後には、東洋太平洋タイトルへの挑戦権を獲得。プロ八戦目にして、大和は、東洋太平洋王者の座に上り詰めた。


 試合内容は、圧巻の一言だった。相手の攻撃をほとんど寄せ付けず、四回でのTKO勝利。会場は、大和の名前を連呼する声援に包まれた。


 控室での大和は、日本タイトルを獲った時よりも、さらに落ち着いた様子を見せていた。


「次は、いよいよ世界だな」


 僕がそう言うと、大和は自信ありげに頷いた。


「ああ。オッサンが夢見てた場所まで、あと少しだ」


 その言葉には、確かな手応えが滲んでいた。この時の僕らは、大和が世界の舞台に立つ日も、そう遠くないだろうと、素直に信じていた。


     *


 けれど、その後の展開は、予想とは違うものになっていった。


 王座防衛戦の話が、なかなか進まなかったのだ。


「次の試合、まだ決まらないの?」


 あるとき、僕がそう尋ねると、大和は珍しく歯切れの悪い返事をした。


「……色々あるんだよ、大人の事情ってやつが」


 その言い方には、以前にはなかった苛立ちのようなものが滲んでいた。


     *


 しばらくして、大和の口から、少しだけ詳しい事情を聞くことになった。


「なあ、大和は、次の試合、なんで決まらないの?」


 あるとき、思い切ってそう聞いてみた。大和は、少し面倒くさそうにしながらも、ぽつぽつと話し始めた。


「……うちみたいな小さいジムだとな。世界ランカーとの対戦組むには、それなりのコネと金が必要になってくるんだよ」


「コネと金?」


「プロモーターとの繋がりとか、興行的な採算とか。実力があるだけじゃ、試合は組めないんだと」


 その話を聞いて、僕は初めて、ボクシング界の現実の一端を知った。


 強ければ、道は自然に開けるものだと、漠然と思い込んでいた。でも、実際はそう単純ではないらしい。


「大和は、それ、前から分かってたの?」


「まあ、薄々はな」


 大和は、吐き捨てるように言った。


「今のところ、格下相手の防衛戦くらいしか、組めそうな試合がねえよ。ランキング上げるには、もっと格上と当たらなきゃいけねえのに、そういう相手ほど、うちみたいなジムとは試合したがらねえんだと」


 その言葉に、僕は、何とも言えない苛立ちを覚えた。大和の実力は、誰の目にも明らかなはずなのに、実力以外の理由で、道が閉ざされようとしている。


     *


 次に会った時、大和は、以前よりも口数が少なくなっていた。


「調子、どう?」


「普通だよ」


 その返事には、以前のような素っ気なさとは、少し違う響きがあった。もっと重い、苛立ちを押し殺したような響き。


 僕は、それ以上、踏み込んで聞くことができなかった。


     *


 この頃から、大和の中に、少しずつ、何かが澱のように溜まり始めていたのだと思う。


 実力はある。結果も出している。それなのに、思うように前へ進めない。


 その理不尽さに、当時の大和が、どんな思いを抱えていたのか。僕はまだ、その深さを、本当の意味では理解できていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。