↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第2部 それぞれの飛躍と挫折編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/93

第23話 日本チャンピオン

「今度の試合、日本タイトルマッチだから」


 そう連絡が来たのは、大和のプロ七戦目を控えた頃だった。文面はいつも通り素っ気なかったけれど、そこに込められた意味の重さは、十分に伝わってきた。


「絶対見に行くよ」


 僕は、間を置かずにそう返信した。


     *


 試合当日、会場には、以前よりも一回り大きな熱気が渦巻いていた。日本タイトルマッチという肩書きが、観客の期待値を押し上げているのが分かった。


 控室に挨拶に行くと、大和は、いつもより張り詰めた表情をしていた。


「緊張してる?」


「当たり前だろ」


 素っ気ない返事だったけれど、その声には、隠しきれない緊張が滲んでいた。


「大丈夫だよ。今までの試合、全部見てきたけど、大和が負ける姿、想像できないもん」


 柄にもなく、そんな言葉が口をついて出た。大和は、少し驚いたような顔をしてから、小さく笑った。


「珍しいな、お前がそういうこと言うの」


「たまにはね」


 その短いやり取りだけで、以前のような気安さが、少しだけ戻ってきた気がした。


     *


 試合は、これまで見てきたどの一戦よりも、激しいものだった。


 対戦相手も、現役の実力者だった。序盤は互角の打ち合いが続き、会場は何度も歓声に包まれた。


 でも、中盤に差し掛かった頃、潮目が変わった。


 大和の左フックが、相手のボディに深く突き刺さる。相手の動きが、目に見えて鈍くなった。そこからは、一方的な展開だった。


 最終的には、五回終了間際のTKO勝利。


 レフェリーが試合を止めた瞬間、会場全体が、地鳴りのような歓声に包まれた。


 僕は、思わず立ち上がって、拳を握りしめていた。


「やった……!」


 自然と、そんな言葉が口から漏れていた。


     *


 試合後、控室に向かうと、大和は、王座を示すベルトを腰に巻いた状態で、少し照れくさそうにしていた。


「似合ってる」


「柄でもねえこと言うなよ」


 そう言いながらも、大和の表情には、確かな充実感が滲んでいた。


「これで、少しは前に進めた気がする」


 その言葉に、僕は頷いた。


「うん。次は、東洋太平洋だね」


「まあな。まだまだ、これからだ」


 大和の目には、次の目標を見据える、力強い光があった。


     *


 帰り道、僕は、これまでとは少し違う感慨を抱いていた。


 大和は、着実に、自分の力で結果を積み上げている。航さんが見出した才能を、彼自身の努力で、確かな形にしていた。


 その一方で、僕はまだ、自分が何を積み上げているのか、はっきりとした形を見出せずにいた。大学の勉強は真面目に続けていたけれど、それが将来、何に繋がるのか、まだ漠然としたままだった。


 ――僕も、いつか、大和みたいに何かを掴めるんだろうか。


 そんな焦りにも似た感情が、この日、初めて僕の中に芽生えた。


 友人の栄光を、心から喜びながらも、同時に、自分自身の道への焦燥感を覚える。


 その複雑な感情が、この先、少しずつ僕らの関係に影を落としていくことになるとは、この時の僕は、まだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。