第22話 埋まらないもの
会長に言われたことが、頭の片隅にずっと引っかかっていた。
――たまにでいいから、あいつのこと遊びにでも誘ってやってくれよ。
でも、いざ連絡しようとすると、指が止まった。以前は当たり前にできていたことのはずなのに、今は妙に緊張してしまう。
どれくらいの頻度で誘えばいいのか。何を話せばいいのか。そんなことを迷うほど、僕らの間には、いつの間にか、薄い膜のようなものができていた。
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『今度の日曜、暇? 久しぶりに飯でも』
迷った末に送ったメッセージに、返事が来たのは、その日の夜遅くだった。
『別に、いいけど』
素っ気ない返信だったけれど、断られなかったことに、僕は少しほっとしていた。
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当日、待ち合わせた駅前で、大和はどこか居心地悪そうに立っていた。
「久しぶりだな」
「うん、久しぶり」
二人とも、次に何を話せばいいのか、少し分からなくなっていた。以前なら、こんな沈黙は生まれなかったはずなのに。
結局、近くのラーメン屋に入り、他愛のない話をぽつぽつと交わした。大学の話、ジムの話。それでも、以前のような、途切れることのない会話のリズムは、なかなか戻ってこなかった。
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「なあ」
食事も終わりかけた頃、大和がぽつりと切り出した。
「最近、あんまり連絡取ってなかったよな、俺ら」
「うん……そうだね」
「別に、お前のこと避けてたわけじゃねえよ。ただ、なんか、うまく誘えなくなってたっていうか」
その言葉に、僕は頷いた。同じことを、僕自身も感じていたからだ。
「僕も、同じだったよ。前は、もっと自然に会えてた気がするのに」
大和は、しばらく黙って、コップの水を見つめていた。
「……オッサンがいたから、ちょうどよかったのかもな、俺らって」
その一言に、僕は少し驚いた。
「どういう意味?」
「あの人がいる時は、勝手に会話が回ってっただろ。俺とお前、直接何か話すってより、オッサンを挟んで喋ってたっていうか」
言われてみれば、その通りだった。航さんがいる場では、彼が話題を振り、軽口を叩き、僕らはその流れに乗るような形で会話をしていた。
「あの人がいなくなって、俺ら、二人だけでどう関わればいいのか、分かんなくなってるのかもな」
大和の言葉に、僕は妙に納得してしまった。
航さんは、単なる仲介者ではなかったはずだ。それでも、無意識のうちに、僕らの関係の中心に、彼という存在があったことは、否定できなかった。
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「でも」
大和が、少し照れくさそうに続けた。
「別に、これで終わりにするつもりはねえから。ただ、前と同じようにはいかねえだけで」
「うん。僕もそう思う」
完全に元通りになったわけではなかった。それでも、その日、僕らは少しだけ、以前の距離感を取り戻せた気がした。
*
別れ際、大和が言った。
「また誘えよ、たまには」
「うん、また誘うよ」
その約束は、以前ほど自然なものではなかったかもしれない。それでも、意識して繋ぎとめようとする意志が、そこには確かにあった。
航さんという存在が埋めてくれていた場所を、僕らはまだ、完全には埋め切れずにいた。
それでも、少しずつ、僕らなりのやり方で、その空白と向き合い始めていた。




