表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第2部 それぞれの飛躍と挫折編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/21

第21話 それぞれの一歩

 航さんが亡くなって、一年が経とうとしていた。


 季節が一巡りする頃には、僕らの生活にも、少しずつ変化が訪れていた。悲しみが消えたわけではなかったけれど、その重さと共に生きていく術を、それぞれが見つけ始めていたのだと思う。


     *


「最近、元気そうね」


 ある日の夕食の席で、母がそう言った。


「そうかな」


「うん。前は、なんていうか……ちょっと元気がない時期があったから」


 母の言葉に、僕は少し驚いた。忙しさにかまけて、家では気丈に振る舞っていたつもりだった。それでも、母には見抜かれていたらしい。


「航さんのこと、大変だったものね」


 母は、航さんに直接会ったことはなかった。それでも、大和との縁を繋いでくれた人として、そして、僕の進路を後押ししてくれた人として、その存在をずっと気にかけてくれていた。


「うん……。でも、少しずつ、前を向けるようになってきたと思う」


「そう。それなら良かった」


 母は、優しく微笑んだ。


「航さんも、きっと見てると思うよ。晴信が、ちゃんと歩いていくところ」


 その言葉に、僕は胸が熱くなるのを感じた。


 母もまた、直接の関わりはなくとも、航さんという存在の大きさを、自分なりに受け止めてくれていたのだと、その時、改めて実感した。


     *


「お前、最近、覚醒したんじゃねえか?」


 同じ頃、大和は、ジムの会長からそんな言葉をかけられていた。


「覚醒って、大げさだろ」


「いや、マジな話だよ。パンチの重みも、スピードも、この一年で明らかに変わった」


 会長は、感心したように腕を組んだ。


「航のやつが見出した才能ってのは、伊達じゃなかったってことだな」


 その言葉に、大和は、少し複雑な表情を浮かべた。


「オッサンの名前、出すなよ」


「悪い悪い。でもよ、お前がここまで来られたのは、間違いなくあいつのおかげだ。それは忘れんなよ」


 大和は、何も言わずに、ただ小さく頷いた。


     *


 その帰り道、大和は、ジムの窓に映る自分の姿を、ぼんやりと眺めていた。


 航に見出された才能。航が繋いでくれたジム。航が教えてくれた技術。


 全てが、航という人物を通じて、今の自分に繋がっている。


 その事実は、誇らしくもあり、同時に、少しの重圧でもあった。


 ――俺は、ちゃんと、オッサンの見出したものに応えられているんだろうか。


 そんな迷いが、ふとした瞬間に、頭をよぎることがあった。


     *


 その頃、僕と大和は、以前ほど頻繁には会っていなかったけれど、それぞれが、それぞれのペースで、前へと進み始めていた。


 僕は、大学の勉強に打ち込みながら、将来への漠然とした目標――航さんのような、誰かの支えになれる大人になりたいという思い――を、少しずつ形にしようと模索し始めていた。


 大和は、ジムでの評価を糧に、さらなる高みを目指して練習に打ち込んでいた。


 それぞれの一歩は、決して大きなものではなかったかもしれない。


 それでも、確かに、僕らは前へと進んでいた。


 航さんが遺してくれたものを胸に、それぞれのやり方で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ