第20話 がむしゃらに
航さんが亡くなってから、半年が過ぎた頃。
大和の試合を、僕は久しぶりに観戦することになった。
「今度、久しぶりに試合ある。良かったら来いよ」
そんな短いメッセージが届いたのは、本当に久しぶりのことだった。
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会場に着いて、僕はまず、大和の変化に驚かされた。
以前の彼も十分に強かった。けれど、今、リングに上がった大和からは、以前とは違う、何か鋭い迫力が漂っていた。
試合が始まると、その迫力は、さらに際立った。 相手の攻撃を最小限の動きでかわし、隙を見つけると同時に、容赦のない一撃を叩き込む。攻撃の一つ一つに、以前よりも明確な「終わらせる意志」のようなものが宿っていた。
結果は、またしても一回戦でのノックアウト勝ち。
会場が沸く中、僕は素直に喜べない自分に、少し戸惑っていた。
強くなっている。それは間違いない事実だった。でも、その強さの根底に、何か危ういものが混じっているような気がしてならなかった。
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「すごかったよ、今日も」
試合後、控室で会った大和に、僕はそう声をかけた。
「まあな」
素っ気ない返事だった。以前と変わらない態度のはずなのに、その素っ気なさの中に、以前にはなかった刺々しさが混じっているように感じた。
「最近、練習量、すごいって聞いたけど」
「別に、普通だよ」
大和は、そう言って目を逸らした。
僕は、それ以上、深く踏み込むことができなかった。何か聞けば、彼の中にある何かに触れてしまう気がして、怖かったのだと思う。
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ジムの会長と、少し立ち話をする機会があった。
「あいつ、才能あるのは間違いないんだけどな」
会長は、少し困ったような顔で言った。
「最近、根詰めすぎなんだよ。休め、って言っても聞きゃしない。多分、何か埋めたいものがあるんだろうな」
そう言ってから、会長は、僕の肩を軽く叩いた。
「なあ武田くん、たまにでいいから、あいつのこと遊びにでも誘ってやってくれよ。ボクシングと関係ない話でもして、頭空っぽにさせてやってほしいんだ。あいつ、お前にはわりと素直だからさ」
その言葉に、僕は何も返せなかった。
埋めたいもの。会長の言葉は、僕がなんとなく感じていたことを、そのまま言い当てていた。
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その一方で、僕自身も、大学の勉強に、これまで以上に打ち込むようになっていた。
情報学の専門知識は、勉強すればするほど、面白いと感じるようになっていった。プログラミング、システム設計。新しい知識を吸収するたびに、少しだけ、心の穴が塞がれていくような気がした。
でも、それは本当に、「埋まっている」のだろうか。
時折、そんな疑問が頭をよぎった。もしかしたら僕も、大和と同じように、何かから目を逸らすために、目の前のことに没頭しているだけなのかもしれない。
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帰り道、電車の中で、僕はふと思った。
あの日、通夜の帰りに交わした約束――「何があっても友達でいる」という約束は、今も変わらず、僕の中にある。
それでも、大和と過ごす時間は、確実に減っていた。それぞれが、それぞれの戦いに、がむしゃらになっていたからだ。
この頃の僕らは、まだそれを、健全な成長の過程だと思い込もうとしていた。
それぞれの道で、強くなっていく。それは決して、悪いことではないはずだった。
ただ、その「がむしゃらさ」の裏に隠された、それぞれの孤独や焦りに、僕らはまだ、正面から向き合うことができずにいた。




