第14話 変わらない日常
大学生活は、思っていたよりも静かに過ぎていった。
サークルには入らなかった。誘われなかったわけではないけれど、なんとなく気が乗らなかった。人付き合いが得意ではない性分は、大学生になったからといって、そう簡単には変わらない。
空きコマや休日は、大抵、大和のアパートで過ごしていた。
「また来たのかよ」
「暇だったから」
そんなやり取りが、もう挨拶のようになっていた。口ではそう言いながら、大和が本気で僕を追い返すことは一度もなかった。
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大和の生活も、相変わらずだった。ジムでの練習、アルバイト、そして時々の試合。デビュー戦の勢いのまま、二戦目、三戦目と、着実に白星を重ねていた。
「次の相手、どんな奴なの?」
「知らねえよ、まだ見たことねえし」
試合前の会話は、いつもこんな調子だった。緊張しているはずなのに、大和は決してそれを表に出さなかった。
「見に行くよ、次も」
「別に、来なくてもいいけど」
そう言いながらも、僕が観戦に来ることを、大和は当たり前のように受け入れていた。
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航さんも、変わらず月に何度かアパートを訪れていた。
「お、また武田くんいるのか。お前ら、家族かよ」
「オッサンには言われたくねえよ。誰よりも頻繁に来てるくせに」
「俺は保護者だからな。武田くんとは違う」
そんな軽口を叩き合う二人を眺めるのが、僕はいつの間にか好きになっていた。
三人で近所のラーメン屋に行ったり、くだらないテレビ番組の話で盛り上がったり。特別なことは何もない、ただの日常だった。
でも、その「何もない日常」こそが、当時の僕にとって、何より大切なものだった。
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「そういえば、大学どうだ。友達できたか?」
ある日、航さんにそう聞かれて、僕は少し言葉に詰まった。
「あんまり……。サークルにも入ってないし」
「まあ、無理して作るもんでもないだろ。お前には、ここに大和がいるんだから」
航さんは、それをごく当たり前のことのように言った。
「オッサン、俺を武田の友達要員みたいに言うなよ」
「事実だろ。お前だって、こいつがいなかったら、もっとつまんない大学生活送ってたと思うぞ、大学行ってないけど」
「意味わかんねえこと言うなよ」
そんな軽口の応酬を聞きながら、僕は笑っていた。
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振り返ってみれば、あの頃の日々は、本当に穏やかだった。
大和は試合を重ねるたびに強くなっていき、僕は大学の勉強にも次第に慣れていった。航さんは、変わらず飄々とした調子で、僕らの生活の傍らにいてくれた。
このまま、何も変わらない日々が続いていくのだと、僕は漠然とそう思っていた。
サークルにも入らず、特別親しい友人も作らず、ただ大和のアパートに通う。傍から見れば、あまり褒められた大学生活ではなかったのかもしれない。
それでも、僕にとっては、かけがえのない時間だった。
あの穏やかな日々の記憶を、僕は今でも、時々思い出す。
まだ、何も知らなかった頃の記憶として。




