第12話 それぞれの卒業
合格発表の日、僕は掲示板の前で、何度も自分の受験番号を確認した。
見間違いじゃない。ちゃんとそこに、自分の番号があった。
その場でスマホを取り出し、真っ先に大和にメッセージを送った。
『受かった』
既読がついてから、返事が来るまでに、それほど時間はかからなかった。
『は。当たり前だろ、あんだけ勉強してたんだから』
素っ気ない文面だったけれど、その裏にある祝福の気持ちは、十分に伝わってきた。
*
その週末、僕らは久しぶりに三人で集まった。航さんの提案で、少し奮発して焼肉を食べに行くことになったのだ。
「合格祝いと――大和のライセンス取得祝いと。二重のめでたい日だな、今日は」
航さんは、そう言って上機嫌に肉を焼いていた。
「別に、俺のライセンスなんて、まだこれからだろ。取れてから祝えばいいのに」
「いいんだよ、細かいことは。とにかく今日は食え。俺の奢りだ」
大和は高校卒業と同時に、プロテストを受けることが決まっていた。合格すれば、正式にプロボクサーとしての道が開ける。まだ結果は出ていなかったが、航さんも僕も、それを疑っていなかった。
「にしても、お前ら二人とも、こんなところまで来られるとはな」
肉を頬張りながら、航さんがしみじみと言った。
「最初に会ったときのこと、覚えてるか? 武田くんは、おどおどした顔でうちに来てさ。大和は大和で、いっつも不貞腐れた顔してた」
「オッサン、昔の話するなよ」
「別にいいだろ、事実だし」
軽口を叩き合う二人を見ながら、僕は、この時間がいつまでも続けばいいと、そう思っていた。
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「武田、大学行ったら、変わっちまうんじゃねえの」
食事も終わりに近づいた頃、大和がぽつりと言った。
「変わるって、何が?」
「知らねえよ。新しい友達とか作ってさ、俺のことなんて忘れんじゃねえかって話」
珍しく、弱気な言葉だった。僕は思わず笑ってしまった。
「忘れるわけないよ。君は、僕の恩人なんだから」
「恩人とか、柄でもないこと言うなよ」
大和は照れくさそうに顔をしかめたが、まんざらでもなさそうだった。
「まあ、しばらくは同じ市内にいるわけだしね。何かあったら、いつでも連絡してよ」
僕がそう言うと、大和は小さく頷いた。
*
「二人とも、これからそれぞれの道を進んでいくわけだけどさ」
航さんが、少し改まった調子で言った。
「大和はボクシング、武田くんは大学。全然違う道に見えるけど、根っこのところは同じだと俺は思ってる」
「根っこ、ですか?」
「うん。自分の力で、自分の人生を切り開いていくってことだよ。誰かに敷かれたレールをただ歩くんじゃなくてな」
そう言ってから、航さんは、二人を交互に見た。
「これから先、しんどいことも、迷うことも、たくさんあると思う。でも、そういうときは、いつでも頼っていいから。俺は、いつでもここにいる」
その言葉に、僕と大和は、顔を見合わせて笑った。
「オッサン、なんかガラじゃないこと言い出したな」
「うるせえ、たまにはいいだろ」
照れ隠しに軽口を叩く航さんを見ながら、僕は、これから始まる新しい生活への不安が、少しだけ和らいでいくのを感じていた。
この人がいてくれるなら、大丈夫だ。
その時の僕は、心の底からそう信じていた。
――この穏やかな日々が、そう長くは続かないことなど、知る由もなく。




