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何があっても、友でいてくれ  作者: 中原九尾
第1部 いじめと出会い編

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12/22

第12話 それぞれの卒業

 合格発表の日、僕は掲示板の前で、何度も自分の受験番号を確認した。


 見間違いじゃない。ちゃんとそこに、自分の番号があった。


 その場でスマホを取り出し、真っ先に大和にメッセージを送った。


『受かった』


 既読がついてから、返事が来るまでに、それほど時間はかからなかった。


『は。当たり前だろ、あんだけ勉強してたんだから』


 素っ気ない文面だったけれど、その裏にある祝福の気持ちは、十分に伝わってきた。


     *


 その週末、僕らは久しぶりに三人で集まった。航さんの提案で、少し奮発して焼肉を食べに行くことになったのだ。


「合格祝いと――大和のライセンス取得祝いと。二重のめでたい日だな、今日は」


 航さんは、そう言って上機嫌に肉を焼いていた。


「別に、俺のライセンスなんて、まだこれからだろ。取れてから祝えばいいのに」


「いいんだよ、細かいことは。とにかく今日は食え。俺の奢りだ」


 大和は高校卒業と同時に、プロテストを受けることが決まっていた。合格すれば、正式にプロボクサーとしての道が開ける。まだ結果は出ていなかったが、航さんも僕も、それを疑っていなかった。


「にしても、お前ら二人とも、こんなところまで来られるとはな」


 肉を頬張りながら、航さんがしみじみと言った。


「最初に会ったときのこと、覚えてるか? 武田くんは、おどおどした顔でうちに来てさ。大和は大和で、いっつも不貞腐れた顔してた」


「オッサン、昔の話するなよ」


「別にいいだろ、事実だし」


 軽口を叩き合う二人を見ながら、僕は、この時間がいつまでも続けばいいと、そう思っていた。


     *


「武田、大学行ったら、変わっちまうんじゃねえの」


 食事も終わりに近づいた頃、大和がぽつりと言った。


「変わるって、何が?」


「知らねえよ。新しい友達とか作ってさ、俺のことなんて忘れんじゃねえかって話」


 珍しく、弱気な言葉だった。僕は思わず笑ってしまった。


「忘れるわけないよ。君は、僕の恩人なんだから」


「恩人とか、柄でもないこと言うなよ」


 大和は照れくさそうに顔をしかめたが、まんざらでもなさそうだった。


「まあ、しばらくは同じ市内にいるわけだしね。何かあったら、いつでも連絡してよ」


 僕がそう言うと、大和は小さく頷いた。


     *


「二人とも、これからそれぞれの道を進んでいくわけだけどさ」


 航さんが、少し改まった調子で言った。


「大和はボクシング、武田くんは大学。全然違う道に見えるけど、根っこのところは同じだと俺は思ってる」


「根っこ、ですか?」


「うん。自分の力で、自分の人生を切り開いていくってことだよ。誰かに敷かれたレールをただ歩くんじゃなくてな」


 そう言ってから、航さんは、二人を交互に見た。


「これから先、しんどいことも、迷うことも、たくさんあると思う。でも、そういうときは、いつでも頼っていいから。俺は、いつでもここにいる」


 その言葉に、僕と大和は、顔を見合わせて笑った。


「オッサン、なんかガラじゃないこと言い出したな」


「うるせえ、たまにはいいだろ」


 照れ隠しに軽口を叩く航さんを見ながら、僕は、これから始まる新しい生活への不安が、少しだけ和らいでいくのを感じていた。


 この人がいてくれるなら、大丈夫だ。


 その時の僕は、心の底からそう信じていた。


 ――この穏やかな日々が、そう長くは続かないことなど、知る由もなく。

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