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A fool and his money are soon parted

 尚も興奮気味の妹が、「何歳ですか? えー、家奈さんって素敵なお名前ですね!」とか何が知りたいのかよく分からない質問を浴びせているが、家奈先輩は全てに人の良さそうな笑顔で丁寧に答えていた。


 一体、何がどうなっているんだ?


 「ま、まあ照葉、それくらいにしといて。なんもおもてなしもできないこんな家ですけど、ゆっくりしていってください」


 呆然としている僕を、彼女が質問攻めに合っていて不機嫌な思春期の息子とでも捉えたのか、母親がいらない気を回してきた。


 「ありがとうございます! こちらこそ、突然来てしまってごめんなさい」

 「いやいや、うちなんかでよかったらいつでも来て! 小助の部屋は二階だから、小助、ちゃんとしなさい」

 「う、うん……」


 僕を置き去りに話はどんどん進んで行き、とりあえず僕と家奈先輩は僕の部屋に行った。


 「はー、疲れた。いい女の子のふりするって、結構面倒ね」


 家奈先輩は僕の部屋に入るなりバックを投げ出すと、深く息を吐いた。さっきまでのいい子ムーブもどこ吹く風、入るや否や僕の本棚を漁り出した。


 「ちょっと! 何してるんですか?」

 「決まってるでしょ? 徳川埋蔵金の地図を探してるのよ。って、漫画ばっかりね」


 なるほど、それが目的だったわけか。しかし、とんでもない人だ。手段を選ばないやつだと思っていたが、ここまでするとは。


 「ちょっと、いい加減にしてくださいよ。なんかとんでもない勘違いされてるじゃないですか。どうするんですよ?」

 「え? 知らないわよ」

 「知っててくださいよ。あっ! あんま触んないでくださいよ」


 僕が言うのも聞かずに、本棚を漁り続ける家奈先輩。不躾とかいうレベルじゃない。けれど、どうせ止めたって無理だから、黙って見ていることしかできない。


 「うーん、ないわね」


 不機嫌そうな声で家奈先輩が言う。あったらこっちがびっくりだ。


 「そりゃあないですよ。大体、もし持ってたとしてもそんなとこに隠さない——って、ちょっと!」

 「あら、まだ上にあるじゃない」


 家奈先輩は本棚を漁り終えると、上に置かれている箱に気づいた。するとすぐに近くに置かれていた僕の椅子に断りもせずに乗ると、その箱に手を伸ばした。


 まずいっ! そこには僕が集めたとっておきのとっておきが入っている! え? 何のとっておきかって? うるさいっ!


 とにかく家奈先輩を止めなくては。曲がりなりにも女の子だ、アレを見せるわけには行かない!


 「せ、先輩っ! そこには何もないですからっ! やめてっ」

 「なに、急に。怪しいわっ! ここなのね!」

 「あー、違う! 違いますって」


 思わず止めに入ってしまった僕だったが、全くの逆効果だった。家奈先輩は一層この箱への疑いを強めている。

 でもここで負けるわけにも行かない。するすると僕にとっての宝箱に伸びた家奈先輩の手を、僕は掴もうとした。その時だった。


 「うわっ、ちょっとあんた、なにやって——」


 僕が強引に乗り上げたせいで、椅子がバランスを崩れて、僕ら二人ごと倒れ込んだ。倒れる刹那、僕は家奈先輩にぶつからないよう、咄嗟に床に手をついた。


 「いったあ」


 背中を強かに打ちつけたであろう家奈先輩の痛がる顔が、僕の目の前にあった。


 あれ? これって、側から見れば僕が押し倒したみたいに——


 「お兄ちゃーん! 飲みもん持ってきたよ」


 とんでもなく間が悪いことに、妹が部屋に入ってきた。にっこにこだった照葉の顔は、僕たちの姿を見てそのままピシっと音を立てて凍った。


 「いやっ、照葉、これは違っ!」

 「いやいやいやいや、いいんだよおお兄ちゃん!! うわあ、ええと、リア充さん! だ? えーと、か、家奈さんもごゆっくり! 勝手に入ってごめんなさい!! 私、お、お母さんとどっか行ってくるからっ!」


 なんて明らかにとてつもなく動揺している早口で捲し立てると、飲み物が入ったお盆を置いて逃げていった。最悪だ……誤解がさらにひどいことに。


 こんなクラシカルな展開って……


 「ちょっと、先輩、どうするんすか、どんどん大変なことになってますって」


 感情のやり場をなくした僕は、とりあえず下の家奈先輩に文句を言う。しかし、当のこいつは全く気にするそぶりも見せない。

 「うっさいわね。まずどきなさいよ。あと、横の『秘密はシーツの中で』『団地の隣人と秘密の×××』もどうにかしなさい」

 「へ?」 


 最悪だっ! 僕が隣に目をやると、僕らと一緒に落ちてきたとっておきコレクションの箱が空いて、中からとっておきが何冊か出てしまっていた。僕は慌てて家奈先輩の上からどいて、それをしまう。


 家奈先輩の方は、何食わぬ顔で僕の部屋荒らしを続けている。良い気はしないが、正直とっておきが見られた今、

見られて困るものなんてないので放っておくことにし


 「ねえ、この『小栗小助 ポエム集』ってなに?」

 「あーーーー! やめてーっ!」


 最悪だっ! 


 その後も僕の部屋を色々見て回っていた家奈先輩だったが、当然目当てのものが見つかるはずもない。諦めたのか息を吐くと、僕を見た。


 「ここには無いわね。じゃあ、別の部屋も探しに行くわよ! 案内しなさいっ!」

 「いやですよ。なんでわざわざ泥棒の手引きを」

 「『秘密はシーツの中で』」

 「はいやります! やらせてくださいっ!」 


 その後、うちの中をいろいろ見て回ることになった。妹と母親は本当に出かけていたようで、幸か不幸か非常にやりやすかった。


 家奈先輩は照葉の部屋にも全く遠慮することなく入っていった。けれどその甲斐虚しく、見つかったのは僕がなくしたと思っていこんでいた漫画くらいだった。勝手に借りやがって。


 いろいろ探し回ったけれど、当然のようになにも見つかるはずはなく、家を一周したあたりで妹たちが帰ってきて、僕たちは部屋に戻ってきた。それにしても、妹のくしゃくしゃになった赤点のテストなんて見たくなかったよ。


 「ないわね」

 「だからないって言ってるじゃないですか」


 あったとしたらとっくに掘り起こして現金化しているだろう。そしたら我が家だってもう二回りくらい大きかったはずだ。


 僕はすっかりぬるくなっているカルピスを飲んだ。埋蔵金があれば、このカルピスだってもっと濃いはずだろう。


 「仕方ないわ」


 家奈先輩は何かを決意したようで、突然立ち上がった。


 「今度はどこ行くんですか?」

 「あなたの妹、名前なんて言ったっけ?」

 「照葉ですけど」

 「照葉ちゃんの部屋に行くわっ! 隣よね?」

 「え、そうですけど、それさっき見たじゃないですか」


 僕の言葉を完璧に無視して、家奈先輩はてくてくと歩いていった。なんだこいつは。僕も慌てて後につく。

 家奈先輩は、照葉の部屋の前まで行くと、ノックした。こいつの中にノックするという概念があったことに驚きだ。


 「はーい」

 「照葉ちゃん? 家奈なんだけど、ちょっと良いかな?」

 「ふえ! 家奈さんっ⁉︎」

 ドタドタという音がした後に照葉が顔を出す。

 「どうしたんですか?」

 「照葉ちゃん。埋蔵金の場所、知らない?」


 家奈先輩は当然のような顔で、本当に単刀直入に聞いた。

 今更だがこいつ、頭おかしいのか? もし知ってたとして、そう聞かれて「はい知ってます」とか言うヤツいないだろ。


 「まいぞーきん?」


 当然、照葉も顔に?を浮かべている。

 しかし次の瞬間、急に顔色を変えた。 


 「あっ、もちろん知ってますよ、でもなんで——」


 そこまでいってから、急に顔を赤くする照葉。こいつもこいつでなんなんだ?

 ん、ちょっと待て、今、知ってるって言ったか? どう言うことだ?


 「え? お前、知ってんの?」

 「うん。ってか、お兄ちゃんも知っててよ。全く、家のこと何も知らないんだから」


 あまりにも驚愕すぎる事実に呆然とする。

 そんな僕を横に、家奈先輩は目をキラキラに輝かせて照葉に詰め寄る。


 「ほんとっ⁉︎ 本当なの? 本当に知ってるの? 照葉ちゃん」

 「え? まあ、そりゃあ本当ですけど」


 あまりの食いつき方にドン引きしている。別に家奈先輩を擁護するわけでもないが、それは仕方ないだろ。普通の人だってそんなこと言われたら腰抜かす。


 「そこまで案内してくれる?」

 「いや、私が持ってきちゃいますよ」

 「いやっ、一刻も早く欲しいの」

 「えぇ? まあ別に良いですけど」


 照葉はまだ結構引いたが、普通に歩き始めた。そのあとにつきながら家奈先輩は僕を掴んで引き寄せた。すごい満面の笑みだ。


 「残念だったわね。あっさり見つかってしまって」

 「いやあ、残念というか、僕もびっくりなんですけど」


 なんか訳がわからない。なんで僕が知らないのに、照葉は埋蔵金の場所を知っているんだ?

 そんなに僕って親から信頼されてないだろうか、妹のことちょっとバカだと思ってたぶん、流石にヘコむ。


 「ほら、ここですよ」


 照葉は階段を降りると、庭へ向かう裏口の扉を開けた。庭にあるのか?


 僕たち二人は庭を見渡す。少しの洗濯物と、木、あと申し訳程度の物置がある。家奈先輩は物置を指さした。


 「あそこねっ!」 

 「いや、違いますよ。ここですってば」


 照葉は干されている洗濯物のうち一つを取った。何だこの布切れは? そして笑顔で言った。


 「ほら、MY雑巾っ!」

 「「………………」」


 やっぱりこいつ、めちゃくちゃバカだ。

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