表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/7

ミダスの手

 流石にもうやる気が失せたのか、その後家奈先輩は大人しく帰った。これでようやくオサラバできると思った僕だったが、照葉に送っていけとかうるさく言われたので、送っていくことになった。


 日はすっかり沈んでいて、月明かりだけが僕らを照らしていた。


 また二人だよ、気まずいなあ。また『面白い話しろ』とか言われたらたまったもんじゃないので、自分から話しかけてみることにした。


 「家奈先輩、はいつから埋蔵金を探してるんですか?」

 「興味出てきたの? 七つの時からね」


 徳川、もとい家奈先輩はちょっと嬉しそうな顔をする。結構チョロいかも。


 「きっかけは別に大したことじゃなかったわ。テレビで徳川埋蔵金についての話を見たの。自分が徳川って名字だったから、ちょっと興味が湧いたの。次の日から、図書館へ行って埋蔵金について調べ始めたの、小学生なんてどうせ暇だしね。それが楽しくって、ずっと続けてた。調べていくうちに、いつしか、自分で探し当てたいと思うようになったわ。ちょうどそんな時にね、親から徳川家の末裔だって聞かされた。運命だって思わない? そこから、私はずっと運命に突き動かされてるの」

 「それが、今もずっと続いてるんですか?」

 「そうね」


 徳川は昔のことを思い出すように、遠くを見つめた。小学生からとは大したものだ。いったい何が、こいつのとてつもない情熱を支えているのだろうか? 僕には、何も分からなかった。思えば、幼い頃から、何かを本気で追い求めたことはなかった。恐竜だとか、ウルトラマンだとか、野球だとか、確かに大好きなものはあった。けれど、僕はそれをただ眺めているだけで、何も行動を起こしたことなんてなかった。ウルトラマンはおろか、恐竜博士にも、プロ野球選手になろうとおも思わなかった。どうせ無理だって思っていたから。


 今なんて尚更だ。ちょっとづつ現実が見えてきて、この世に不可能なことがどんどん増えていった。埋蔵金を見つけることだって、僕からしたらとてもじゃないけど不可能に思える。そもそも、そんなものなんてないと思う。

 みんな、夢が叶わなかった時のことを考えて、恐れて、諦める。

 けれど、何でこの人は、恐れずに突き進むことができるのだろう?


 「先輩は、何でそんなに頑張れるんですか?」


 口にした後で、自分が言ったことに気がついた。なぜか、訊かずにはいられなかったのだ。僕は繕うように続ける。


 「いや、その、徳川埋蔵金なんて、本当にあるかどうかも分からないし、全部無駄ってことも」


 失敗したっ! こんなことを言ったら怒られるに決まってる。

 家奈先輩は足を止めると、僕の方を振り向いた。


 「そんなの、かっこいいからに決まってるじゃないっ! 小助、一体何人の人が今まで、埋蔵金を求めて自分の時間を、お金を、そして人生を使ったと思う? それって、あなたが思っているよりも、ずっと、ずーっととんでもない数なの」


 僕は思わず構えたけど、その顔は、意外にも輝きに満ちていた。その表情はまるで、というか本当に、夢を語る少女のものだった。


 「確かにそれだけ探しても見つかっていない、それは事実よ。そんなものはないかもしれない。でも、これはまだ事実じゃないわ。でも、世界中のどんなものも、見つかるまではあるかどうかなんて分からなかった。けど、それを見つけるのはいつも、あるって信じて、ずっと探し続けた人なのよ! だから私は、あるって信じ続けるし、全力で探してる。最高なことに、素敵な仲間もいるしね。それに、今まで誰も見つけられなかったものを見つける、それって、本当にとっても素敵なことじゃない?」


 家奈先輩の顔には、一点の曇りもなかった。本当に、信じているのだろう。自分が進むと決めた道を。それが狂っているだとか、常識はずれだとか、そんなことは、どうでも良いのかもしれない。


 僕は眩しくて、目を逸らしたくなった。笑顔にじゃない、彼女の言葉と、夢にだ。


 彼女が言ってることを、口で言うのは簡単だ。でも、こんなに行動を起こせる人間が、一体どれくらいいるだろうか。

 僕は彼女をバカにできるくらい、なにかしたことはあるっけ?


 「確かに、本当にできたら、最高ですね」

 「でしょ」


 家奈先輩はにっと笑った。それはちょっと見惚れるくらい、素敵な表情だった。


 「小助、あんたは夢、あるの?」

 「ないです」


 本当は、あったのかもしれない。けど、叶わないことが怖くて、見ないふりを続けていたんだろう。そうしているうちに、本当に見えなくなってしまった。


 「じゃあ、見つけなさい」


 家奈先輩は立ち止まって、僕をまっすぐに見た。


 「なんでも良いから、見つけなさい。なにかを叶えなきゃ、そのために、私たちは生きてるんだからっ!」

 「どうやって、見つければ良いですか?」

 「そんなの知らないわよ」


 そう言いながらも、家奈先輩は考えてくれているようだ。もしかしたらこの人、普通に良い人なのかもしれない。ただ、夢に向かって全力なだけで。


 「そうだ。黄金部に入りなさいっ! 私たちと一緒にいろいろやっているうちに、やりたいことくらい見つかるわよ! 一年生にも部員が欲しいと思っていたし、ちょうどいいわ。あなた、結構見所がありそうだし」


 家奈先輩は僕に向けて手を伸ばした。僕には、その手がギリシャ神話に現れる、触れたもの全部黄金に変えてしまうミダスの手みたいに見えた。


 このまま彼女の手を取れば、僕の青春だって、一緒に黄金に染め上げてくれるかもしれない。

 それに、この人は本物の情熱を持っている。それがどんなに全力の熱か、僕は出会ったばかりだけど、嫌と言うくらい知ってる。


 そんな、太陽みたいに輝く本気の熱を見せられて、僕は——


 「イヤですよ。何であんな頭のおかしい部に」

 「『秘密はシーツの中で』、『団地の隣人と秘密の』」

 「入ります!」

 

 最悪だっ!

 

 こうして、本当にバカみたいな理由で僕の黄金部への入部は決定した。そしてこれが、僕のバカバカしくて、砂と土と、金粉にまみれた日々の始まりだったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ