光るもの必ずしも金ならず
五時間目に微妙に遅刻しつつも、なんとか僕は教室に戻れた。
授業中何やらいろんな方向から視線を感じた。コソコソと噂している声まで聞こえてくる。
あの時教室にいたやつも多い、すでに結構噂は広がっているのだろう。普段なら注目されて嬉し恥ずかしなところだが、今はそんなことを考えている暇はない。
「おいおい、お前生きてたんだな。よく逃げ切れたな」
加藤が呑気な声で僕に言う。野次馬みたいな態度をしているが、僕を売った立派な加害者の一人だ。
少々腹が立つがこいつに構ってる暇もまたない。
「いや、まだだよ。ホームルーム終わったら速攻帰る」
「逃げ切ったわけじゃないのか」
「まあね」
「そりゃあ……ご愁傷様だな」
ガチな表情で手を合わせる加藤。縁起でもないから本当にやめてくれ。
宣言通り、ホームルームが終わると僕はオグリキャップ、ではなくサイレンススズカばりの逃げ足を披露し、速攻で家に帰った。
三年生はまだ下校していないようで、なんなく電車に乗ることができた。とりあえず、今日のところは生き延びることができたようだ。
電車は早くも最寄りの駅に着いて、僕は胸を撫で下ろした。住所が割れでもしていない限り、ここまでくれば大丈夫だろう。住所の管理は、我が学園の管理能力を信頼するしかないが。
一緒に帰る約束をしていた舞に謝りの連絡を入れようと携帯を取り出すと、ちょうど加藤から電話がかかって来た。
「おう、もしもし」
『小栗小助!! 今あんたどこにいんのよ!』
ブツッ……ツー……ツー……
多分、電話が掛かってきたのとかは気のせいだ。出た瞬間馬鹿でかい声で怒鳴られてもいないし、周りの人が僕のことを怪訝な表情で見てるのも気のせい気のせい。
携帯がまた震え出すが、もちろん切る。こんなことをしている場合じゃない。早く舞に連絡入れないと。
ピコンっ
今度は加藤からメッセージが送られてくる。
『電話出ろ』
『ガチ』
『やばい』
『出ろ』
『俺が死ぬ』
また電話が掛かってくる。流石に仕方ないので出る。
『小栗小助っ! ようやく出た。私ちゃんと言ったわよね。放課後部室に来いって』
「言われてましたっけ? ちょっと今日用事があるんで明日にしてください」
『そんなの通用しないわよ。たとえ用事があったってあたしには関係ない話だわっ!』
そんなめちゃくちゃな。
「そういえば、そこの加藤、徳川埋蔵金がどうたらみたいな話を前にしてましたよ。僕なんかよりそっちに聞いてみたらいかがでしょうか」
『ちょっ、おい! お前っ』
加藤の声が微かに聞こえたような気がしたが、僕は構わず電話を切る。すぐに舞に詫びの連絡を入れると、そのまま電源を切った。
さて、寝て起きたら大抵のことを忘れる僕だったが、流石に学校へ向かう途中に昨日のことを思い出して、僕は少し震えていた。
徳川らのことだから、僕のことを朝から待ち伏せくらいはするかもしれない。舞に先に行ってもらって、僕は微妙に遅刻する時間帯に登校した。
それが功を奏したのか、そもそも朝に待ち伏せなんてかったるいことを彼女らがしなかったのかは分からないけれど、とりあえず僕はつつがなく登校することができた。
高校入学早々に一回遅刻がついたが、命に比べれば安い。
しかし、これを毎日続けるのは避けたい。早めに僕に飽きてくれればいいのだけれど……なんて呑気に考えながら授業を受けていた。しかし、この時僕は知らなかったのだ。傍若無人な彼女らに、飽きるほどの忍耐力すらないことを。
放課後になるって、僕は今日もさっさと帰宅しようと荷物をまとめていると、後ろから指で突かれた。
「おい小栗、昨日はよくもやってくれたな」
「いやあ、申し訳ない。加藤は大丈夫だった?」
「なんとかな。あいつらが興味があるのはお前みたいだったし無傷で済みそうだ。でも、この埋め合わせはしてもらうからな」
あいつらが興味あるのは僕なんかではなくて、僕の苗字だ、と訂正してやろうと思ったがそんなことをしている暇なんてない。
「まあ仕方ないか。でも今度でいい? 今日も早く帰んなきゃいけないし」
「いや、今だ」
「へ?」
だから今は無理だって、と僕が言おうとすると加藤は何やらポケットからハンカチを取り出す。そして、僕の口に無理やり押し当てた。
「え? 何? きっ」
わけもわからず抵抗しようと、息を吸い込んだところで、僕の意識は急激に遠のいていった。
そして、ようやく冒頭に戻るわけだ。
「小栗小介、観念なさい。そしてこの私、徳川家の末裔、徳川家奈に、埋蔵金の在処を教えなさいっ!」
なんでこの人は初対面でもないのに自己紹介しているのだろうか。
「だから知らないですって。それよりなんですか、これ」
僕は自分が縛られている腕に目を向ける。
「あんたがちょこまか逃げるから、一番手っ取り早い方法を使ったのよ」
正直ちょっと安堵した。こいつらのことなら、もし簡単にできたとしたら、僕の四肢を切り落としかねない。
頭が冴えてくると、加藤への怒りがむらむらと湧いてきた。あいつ、友達である僕を売ったな。
「南、今度こそあれ持ってきちゃいないさいっ!」
「……了解」
徳川は意気揚々と指示する。昨日見たとんでもない器具が机に置かれる。
「うわああ! やだやだ、なんですかそれっ!」
「黙ってなさい!」
僕の頭にそれが被せられる。とてつもなく嫌な感触だ。
「さあ、埋蔵金の場所を教えなさいっ!」
「知らないですって! ほんと!」
「スイッチオン!」
「ぎゃあああっ!」
謎の拷問は二時間くらい続いた。
「なかなかしぶといわね。もしかして、本当に知らないの?」
「だから最初からそう言ってるじゃないですかっ!」
この女、僕が自由だったら間違いなくぶん殴っているところだった。
「おいおい、部長。まだ信じるのは早いんじゃあないのか?」
「ちょっと!」
男の方も参加してきた。名前は確か、忠正とか言ったか?
「持ってたら出しますって。それか、黄金じゃなくてお金とかならだします。二千円くらいまでならっ!」
僕の必死の嘆願に、情けなすぎたのか忠正は流石に黙った。
「……これ、違うと思う。かの小栗忠順の子孫なら、こんなに情けないわけない」
「確かにそうね。南の言う通りだわ」
おいちょっと待ってくれ。その言い方は流石に僕の沽券に関わる!
まあ僕のプライドはとにかく、なんとか拘束は解いてもらえた。
本当に良かった。酷い目にあったが、なんとか生き延びることができた。これから、やっと日常に戻れる。




