第六十七話 重なる影
鋼と鋼がぶつかり合う凄まじい衝撃音が、戦陣の喧騒さえも塗り潰していく。
ベリルと『鉄槌』バルカス・ドラクロワの一騎打ちは、すでに数十合を超えていた。
ベリルの鋭い斬撃をバルカスが戦鎚の柄で強引に弾き飛ばし、直後に振り下ろされる破壊の鉄槌をベリルが紙一重でかわす。
「ハァ……ハァ……!」
お互いに肩が上下し、汗が目に入る。しかし、攻勢を強めているのはバルカスだった。
圧倒的な体格差から繰り出される重い連撃は、受けるたびにベリルの腕を痺れさせ、体力を確実に削り取っていく。
「どうした、先ほどまでの勢いは! 貴様の剣、少しずつ軽くなっているぞ!」
バルカスの咆哮とともに放たれた横薙ぎの一撃が、ベリルの頬をかすめ、背後の立ち木を粉々に砕いた。
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その頃、離れた位置から戦場を俯瞰していたセレス・ヴァレンタインは、帝国軍本陣で巻き起こっている異常な砂塵と怒号に気づいた。
「……何事だ? 本陣が騒がしいな。バルカスの部隊が混乱しているのか?」
セレスは目を細め、喧騒の中心を凝視した。砂塵の向こう、巨鎚を振り回すバルカスと渡り合っている影がある。その淀みのない剣の軌跡に、セレスの身体が一瞬で熱を帯びた。
昨日、その脳裏に鮮烈な屈辱と記憶を刻みつけたあの剣閃。
「見つけた……。あの時の男だ……!」
名前すら知らぬ。だが、昨日の敗北以来、その剣筋は一瞬たりとも脳裏から離れることはなかった。今、目の前で宿敵が別の男と刃を交えている事実に、彼女の独占欲が跳ね上がる。
「ヴァレンタイン隊、全軍転進! 目標は帝国軍本陣、バルカスと交戦中の男だ。他の者には指一本触れさせるな、私が直々に殺す!」
セレスの歓喜にも似た号令とともに、ヴァレンタイン隊が戦場を横断するように進軍を開始した。
さらに、本陣急襲の知らせを受けた近接の部隊が、手柄を求めて独断で反転し、ベリルのいる中心地へと急行し始めた。
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一方、王国軍の中央防衛線では、凄惨な持久戦が続いていた。
依然として帝国軍の主力は中央突破を狙い、苛烈な圧力をかけ続けている。ジュリアス王子も王国騎士団長ジークハルト・ベルシュタインも、血に塗れながらその猛攻を耐え忍んでいた。
「グレイスタイン卿! 地盤はどうした! まだ崩れないのか!」
「私にもわからん。だが信じる他ない」
辺境伯は歯噛みした。
全軍が極限状態に置かれ、今にも防衛線が食い破られようとしたその時。
「……報告! 敵包囲網の側面に緩みが出ています! 一部の後方部隊が、自分たちの本陣方向へ引き返していくのが見えます!」
偵察兵の叫びに、ジークハルトが目を凝らす。
依然として正面の敵は健在だが、包囲網の厚みが部分的に削られ、指揮系統にわずかな澱みが生じていた。明らかに帝国軍の背後で、彼らの注意を引く何かが起きている。
「一体何が起こっているんだ……?」
辺境伯は、震える声で遠く帝国軍の後方を見つめた。




