第四十三話 森の乱闘、それは歓迎の流儀
休暇を終え、ベリルたち第五小隊は領都近隣の森へ演習に来ていた。隊員の補充に伴い、森の中での連携を確認するためだ。
巨木が立ち並ぶ薄暗い森。一息ついたところで、副官のマルクが新入りたちに釘を刺した。
「――おい。さっきの動きは何だ。自分だけ手柄を立てようと突っ走るな。前でヨハンたちが構えてんだから、そいつを壁にして動け。もっと協調しろ。カッコつけて死に急ぐんじゃねえぞ」
マルクの説教に、新入りの隊員たちはあからさまに退屈そうな顔をする。そんな空気を、デニスがニヤつきながらかき混ぜた。
「……まぁ理屈はそうですけど。ぶっちゃけ、新入りの連中も含めて、この中でガチでやり合ったら誰が一番強いんですかね?」
その一言で、現場の空気が一変した。
「……面白いこと言うじゃねえか、デニス」
長剣の柄に手をかけ立ち上がったのはガストンだ。そこに、木の上からひょいと新入りのシオンが舞い降りた。
「連携、連携って……おじさんたちの話は退屈なんだよね。この暗い森なら、僕が君たちの首を掻き切るまで一分もかからないよ」
不敵に笑うシオンの背後に、冷ややかな声が突き刺さった。
「……そういう奴が、戦場じゃ最初に死ぬのよね」
ミラが弓の手入れをしながらクールに毒を吐く。
「あら、そんなに熱くならないで。森を丸焦げにしたら小隊長に怒られちゃうわ」
最後尾で退屈そうに髪を指で弄っていた新入りで魔法兵のルナが、余裕の笑みで歩み寄る。
「剣を抜く手間を省いて、私がまとめて魔法で眠らせてあげましょうか? ……ねぇ、小隊長。もし私がお手柄を立てたら、次の休暇、一緒に街までお買い物に付き合ってくださる?」
上目遣いでベリルを誘惑するように覗き込むルナに、ベリルは苦笑いするしかない。
「ガハハ! 自分が一番だと思ってんなら、俺のこの杭打ちガントレットを食らってみろ!」
同じく新入りでドワーフのグレンが機械仕掛けの重装備を鳴らして気炎を吐く。
対して古参のガラムが無言で盾を構え、ヘルガが「やってごらんよ!」と長剣を抜き放つ。
ヴァルターがニヤリと笑ってベリルに目配せした。
「いいだろう。こいつも訓練の一環だ……なぁ、小隊長?」
「……やれやれ。互いに大怪我だけはさせるなよ」
ベリルの呆れた許可と同時に、森は戦場に変わった。
シオンが影に消え、グレンの杭打ちガントレットが地面を砕く。ルナが「逃がさないわよ!」と華やかな魔力で牽制し、それをライアンが神速で掻い潜る。ヘルガが鋭い剣筋を繰り出し、ガストンが「俺を無視するな!」と叫びながら乱闘へ飛び込んだ。
ベリルは少し離れた倒木に腰を下ろし、特等席で見物していた。
「小隊長、あれ止めなくて良かったんですかー?」
冷ややかに戦況を見つめていたニコが尋ねる。
「いいさ、互いの底が見えた方が、明日からの仕事がやりやすい」
ベリルはのんびりと答えた。
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――瞬間、ベリルの目つきが変わった。
隊員たちが互いの殺気に酔い、異変に気づくよりも早く、ベリルが地を蹴った。
頭上の枝をなぎ倒し、巨大な翼を広げた大鷲の魔獣が猛然と急降下してくる。獲物を定める鋭い爪が、詠唱直後で隙のあったルナを捉えようとした刹那、ベリルは凄まじい殺気を放ちながら最短距離を突き抜けた。
瞬く間に間合いを詰め、放たれた抜刀。 神速の一閃。 何が起きたのか理解する間もなく、大鷲の魔獣は空中で一刀のもとに両断され、血飛沫と共に森の土へと沈んだ。
ベリルは何事もなかったかのように血糊を払って、静かに剣を鞘に収める。
「……さて、演習は終了だ。みんな泥だらけじゃないか。さっさと引き上げて、跳ね馬亭で歓迎会でもしよう。今日はセドリックの奢りらしいからな」
「ええっ!? そ、そりゃないですよ小隊長! 俺、今月もう財布が空っぽだって言ったじゃないですか!」
後ろで荷物番をしていたセドリックが情けない声を上げる。
隊員たちからは「よっ、太っ腹!」「ごちそうさま!」と野次が飛び、森には先ほどまでの殺伐とした空気とは違う笑い声が広がった。
呆然と立ち尽くす新入りたち。古参の隊員たちは、改めて突きつけられた次元の違いに、苦笑いしながら肩をすくめた。
「……やっぱり、小隊長には敵わないな」
デニスが泥を拭いながら呟くと、ルナもグレンも、そして先ほどまで不敵だったシオンも、ただただ黙ってその背中を仰ぎ見るしかなかった。




